論語と算盤を読み解く
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EPISODE· 2026年8月11日

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えーと、今日はちょっと蒸し暑くて、収録前にコーヒー買いに出たんですけど、自販機の前で三分くらい何も押せずにいたんですよね。選択肢が多すぎて判断が止まるっていう、あれ、なんなんですかね。でまあ、缶コーヒーのブラックを買いました。いつも通り。で、そのまま今日の話に入っていくんですけど——今日は『常識と習慣』という章を読んでいきます。渋沢栄一の『論語と算盤』の中の一章です。この章に、「偉い人」と「完き人」という二つの言葉が出てくる。あなたはこの二つ、どう違うと思いますか。パッと聞いた感じ、なんとなく序列に見えますよね。偉い人のさらに上に、完き人がいる、みたいな。でもぼくは、この読み方は少し外れているかもしれないと思っていて——その話は次のセグメントでします。

reading

じゃあ中身に入ります。まず渋沢の言葉を正確に取り出しておきたくて——「偉い人」というのは英雄・豪傑型です。一点で突出している、でも人格に欠陥がある、というタイプ。対して「完き人」は、知・情・意の三つが円満に揃った人のことで、渋沢はこれを「常識の人」と呼ぶ。で、渋沢の主張はシンプルで、社会が本当に必要としているのは後者だ、政治でも産業でも、土台を支えているのは「常識ある人材」だ、という話をしているわけです。[pause] ただここで、「常識」という言葉をそのまま受け取るとちょっと危なくて、現代でこの言葉って、空気を読む・慣習に従う・波風を立てないっていう意味に使われることが多いですよね。それ、本当ですか、って一回止まりたいんですけど——渋沢の言う「常識」はそういう話じゃないんです。知識があって、情がある、かつ意志で動ける、その三つを同時に動かせることを指している。つまり「常識の修養」っていうのは、周囲に合わせることじゃなくて、複数の軸を均衡させながら動ける能力の話なんですよね。で、ここで面白いなと思うのは、「偉い人」崇拝ってこの均衡の裏返しなんじゃないか、ということで——一点突破の英雄を称えることで、均衡を保つっていう地味で手間のかかる努力から目が逸れる、という構造が成り立つ。意図的かどうかは別として、そういう機能を果たしている場面はあると思うんです。[pause] 具体的な場面で言うと、ある組織で一人の突出した人物が短期間にすごい成果を出す、組織がその人物を英雄扱いする、でも周囲は疲弊して、その人が去ったあとに仕組みも文化も何も残っていない、という場面——あなたも、似たものを見たことがあるんじゃないかと思う。ぼくは何度か見てきた。対照的に、長期にわたって安定して機能している組織を見ると、特定の英雄がいるわけじゃなくて、複数の「調整できる人」が要所にいることが多い——これはぼくの観察で、統計じゃないですけどね。ただ、渋沢はそういう構造を百年以上前に言葉にしていた、という点は確かで、そこは単純に面白いと思う。もう一個だけ言うと、渋沢自身の話があって——この人は、「偉い人」を価値の頂点に置かなかった。でも実際には、近代日本の産業の基盤を作った人物で、合本という仕組みで複数の利害を束ね、調整して、制度にしていくという動き方をしている。「偉い人」を否定することで、自分のような立ち回りを肯定する論理が同時に成立している。それが計算だったかどうかはぼくには分からない、でも構造としてそうなっているのは面白いなと思う。

closing

まあ、まとめるつもりは特にないんですけど——一個だけ問いを残します。あなたが今いる組織や場所で、「完き人」と呼べる人は誰を指しているか、ちょっと思い浮かべてみてほしくて、その人物は、ちゃんと必要とされていますか。もう一個言うと、あなたの組織は「偉い人」を評価するのか、「完き人」を評価するのか——意識したことが、ありますか。次回も『常識と習慣』章から、別の角度で読んでいきます。番組「論語と算盤を読み解く」でした。

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