論語と算盤を読み解く
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EPISODE· 2026年8月2日

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はい、論語と算盤を読み解く、始まります。えーと、今日はちょっと個人的な話から入るんですけど、最近ぼく、手帳を買い替えたんですよね。で、新しい手帳の最初のページに何か書こうと思って、三十分くらい止まったまま、何も書けなかった。なんか、目標って言われると急に言葉が出てこなくなるやつ、あなたも経験したことあるんじゃないですか。[pause] まあそれは置いといて、今日は渋沢栄一の論語と算盤から、立志と学問という章を取り上げます。タイトルだけ見ると、大きな志を持ちましょうという話に聞こえる。でも実際に読むと、渋沢が言っているのはだいぶ違うことで、ぼくはそこが面白いと思っていて、今日はそこをほぐしていきます。

reading

まず原文が実際に何を言っているかなんですけど、渋沢はこの章で「大立志」と「小立志」を明確に分けているんですよね。大立志というのは、一生を貫く軸のこと。でこれ、なんとなく抱く夢とは違って、渋沢は自分の長所・短所、それから資力、現実的な条件を冷静に照らし合わせて、「貫けると見込める」ものにしろと言っている。感情の話じゃなくて、見積もりの話をしている。で小立志は、日々の目標とか希望のことで、こっちは動いていい。ただし大立志を毀損しない範囲に収めることが条件になっている。[pause] 渋沢はこの章で孔子の「十五にして学に志す」から「七十にして心の欲するところに従えども矩を踰えず」まで、段階的に完成していく例を引いているんですね。でここをぼくは少し注意して読んだほうがいいと思っていて、あれは「最初から完璧な志でなくていい」という話ではなく、「完成に向けた各段階に、ちゃんと根拠があった」という話として読む方が正確だと思っています。十五歳の孔子が漠然と夢を持ったという話ではなくて、各地点で手応えを確かめながら進んでいた、ということです。さて、現代でよくある解釈として「大きな夢を持ちつつ、日々の小さなことも大切に」みたいなまとめ方があるんですけど、それ、本当ですか、とぼくは思っていて、正直これは骨抜きだと思っています。渋沢が言っているのは「夢は大きく」ではなくて「志は冷静に」の方に重心がある。感情的な憧れで大立志を決めるな、というのが原文の核心部分で、そこが抜けると全然違う話になる。もう一点、渋沢は小立志が大立志を侵食するリスクも見ていて、「大立志を戻らぬ範囲に留める」という表現を使っているんですが、日々の目標を積み上げていたら気づけば方向が変わっていた、という事態を問題にしている。これって、あなたも組織の中で見たことがあるんじゃないですか。最初の目的とは全然違う優先順位で動いているのに、誰もそれに気づいていない、という状況のことです。[pause] ここで渋沢自身の話を少し絡めると、一八六七年のパリ万博に派遣された二十七歳の渋沢は、エラールというフランスの銀行家の勧めで、実際に公債の運用に関わっているんですよね。で、合本組織や銀行の仕組みを頭でなく体で理解した後に、「日本にも同じ仕組みを作る」という軸が固まって、帰国後に第一国立銀行の設立へ向かう。ぼくがここで面白いと思うのは、渋沢がこの志を「夢として抱いた」のではなく、仕組みを実際に動かしてみた後で設定しているという順番です。原文で言っている「現実的条件を冷静に比較してから志を立てろ」という手順を、渋沢自身がパリで踏んでいる。書いていることと生き方が一致している例として、これは素直に興味深いとぼくは思っています。構造として整理すると、大立志と小立志の関係は「夢と日々の行動」の話ではなく、「軸と可動域」の話として読む方が正確だと思っていて、小立志が動ける範囲を大立志が規定する。これは制約ではなくて、意思決定のフィルターとして機能している、という読み方です。で、多くの「志の話」が大立志の設定コストを語らない点が、ぼくにはずっと引っかかっていて、渋沢は設定にこそ慎重さを要求しているわけで、そこが現代の解釈から一番抜け落ちているところだと思っています。

closing

今日のまとめをするつもりはないんですけど、一個だけ問いを置いておくとしたら、あなたが今持っている大きな目標は、自分の能力・資力・置かれた環境を照らし合わせた上で設定されたものか、それとも感情の勢いで決めたものか、渋沢ならそこを先に問うと思っています。ぼくは、どちらが良い悪いという話ではなく、その区別がついているかどうかが出発点だと思っていて、そこだけ持ち帰ってもらえれば十分です。次回も引き続き、立志と学問の章から、別の角度を取り上げる予定です。また聴いてください。論語と算盤を読み解く、でした。

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