論語と算盤を読み解く
論語と算盤を読み解く
EPISODE· 2026年7月20日

論語と算盤を読み解く

RIO

論語と算盤を読み解く

TAP TO PLAY

このエピソードをシェア

SHARE
SCRIPT
opening

論語と算盤を読み解く、始めます。えーと、今日はですね、収録の前にちょっとコーヒーを買おうとして、自販機の前で三十秒くらい固まってたんですよね。ブラックにするかカフェラテにするか、まあそれだけの話なんですけど、結局ブラックにしました。で、なんでそっちにしたかっていうと、たぶん今日の自分が何を求めているかを、半ば無意識に選んでいる、みたいな感じがしていて、これが今日の話と実は地続きなんですよ。今日扱うのは『処世と信条』の章——人物をどう観るか、という話です。聞こえはシンプルなんですけど、渋沢が持ち出すのは孔子の三段構えの観察法で、「見る」だけで終わらない。その先に何があるのか、今日はそこを掘っていきます。何がそんなに違うのか、一緒に考えてみてください。

reading

まず整理から入ります。渋沢が『論語と算盤』のなかで比べているのは、三つの人物観察の流派、とでも言えばいいんですかね。ひとつは佐藤一斎、もうひとつは孟子の方法で、どちらも目つきとか表情とか、外に出てくるものを読んで人物を判断する——端的で、ある意味合理的な方法です。で、渋沢がそれに対して支持するのは孔子の「視・観・察」、三段階の観察法のほうで、ここが今日の核心になります。「視」というのは行為の善悪を外から見ること、「観」はその行為を生んだ動機や精神を内側から観ること、そして「察」は——その人が何に安心を置いているか、何に満足しているかを察すること。この三つです。[pause] で、ぼくがこの構造を面白いと思うのは、三層が全部一致して初めて「真の正しい人格」と言えるという、渋沢の読み方なんですよ。行為が正しくても動機が不純なら本質は別、動機が正しくても安心の置き場所が歪んでいればまた別——というふうに、どこかひとつが外れると、全体の評価がひっくり返る構造になっている。あなたも採用の場面とか、取引先を審査する場面で、過去の実績だけ見て判断したことって、きっとあると思うんですよ。実績は「視」の話です。それはあくまで外から見える行為の層で止まっている。たとえば、毎年数字を出し続けてきた営業担当がいたとして、その人の動機が「上司に認められたい」だけだったとしたら、評価制度が変わった瞬間に、あるいは上司が替わった瞬間に、パフォーマンスが崩れる——これ、現場でよく見るパターンじゃないですか。実績という「視」の層だけを見ていたから、そこまで読めていなかった、という話です。さらに「察」の層、つまりその人が何に安心を置いているかを見ていないと、配置や役割を間違える。たとえば、すごく丁寧に顧客と関係を築ける人が、新規開拓のポジションに入れられて潰れる、みたいなことが起きる。本人は関係を育てることに満足しているのに、次々と新しい相手に当たることを求められれば、それは本人の安心の置き場所と根本的にずれている。[pause] で、ここが今日一番言いたいところなんですけど、「視・観・察」という孔子の三段階は、現代でも人材評価の文脈で引用されることがあります。それ、本当ですか——というのはちょっと意地悪な問いかけですが、実際には多くの場合「動機まで見ましょう」、つまり「観」で止まっている。「察」が抜け落ちているんですよね。「察」——何に安心・満足を置いているか——これが最も掘りにくく、最も本質に近い層で、本人も言語化できていないことが多い。だから行動パターンや選択の癖を時間をかけて観察するしかない。それを省略したまま「動機まで見た、だから人物評価できた」とするのは、孔子の三段階を実質二段階に短縮しているに過ぎなくて、渋沢が「簡便すぎる」と批判した一斎・孟子の立場と、大差なくなっている——という逆転が起きている、とぼくは思っています。「視」は事実確認、「観」は動機の推定、「察」は価値観の構造そのものへの踏み込み、という順に難易度が上がっていく。問うべき問いは、「この人は何をしている時に、余計な理由なく満足しているか」——そこまで降りないと、「察」には届かない。

closing

あなたが今、「この人は信頼できる」と判断している相手について、その根拠はどこにあるか、ちょっと考えてみてほしいんですよ。「実績がある」なら「視」の層です。「動機が真摯だと感じる」なら「観」まで届いている。でも「その人が何をしている時に、余計な理由なく満足しているか」まで見えているか——「察」まで降りているか、となると、どうでしょう。判断の根拠が浅い層で止まっていること自体は、悪じゃないとぼくは思っています。ただ、それを「深く見た」と思い込んでいる時が一番危うい。孔子の三段階を、二段階で終えていないか——それを問いとして残しておきます。次回もこの章を続けます。論語と算盤を読み解く、でした。

← PREV

エピソード

ARCHIVE

論語と算盤を読み解く の他のエピソード