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論語と算盤を読み解く
EPISODE· 2026年9月25日

論語と算盤を読み解く

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opening

今日ね、スタジオに来る前にちょっと早めに出て、いつもと違う道を歩いてきたんですよ。で、まあ特に理由はないんですけど、普段15分かかる道が、遠回りして30分になって。でも別に、遠く感じなかった。地図で見ると倍の距離なのに、なんかそんな感じがしなくて。それ、本当ですか、って自分に言いたくなったんですけど、[笑] まあその話はいったん置いといて。今日は『論語と算盤』の『実業と士道』章から、渋沢栄一が「天然の抵抗を征服せよ」と語る一節を読み解きます。これ、インフラの話でも文明礼賛でもなくて、距離と人間の関係がどう変わったか、その認識の話なんですよね。「天然の抵抗の征服」という言葉の射程が、どこに向いているのか。そこが今日のポイントで、まずその文脈だけ頭の隅に置いておいてほしい。

reading

渋沢がこの章で語るのは、スエズ運河の開通、シベリア横断鉄道の敷設、パナマ地峡の開鑿、こういった19世紀後半から20世紀初頭にかけての巨大インフラによって、地球の距離が縮んだ、という認識なんですよ。で、これがただの時代解説かというとそうじゃなくて、渋沢は1867年のパリ万博を実際に視察しています。自分の足でヨーロッパを歩いた人間が言っている。観念として「世界は広い」と言っているんじゃなくて、「ぼくはそこに行った、あの距離がこれだけ縮んだ」という体の経験として語っている話なんですよね。渋沢は「天円地方説」の時代と対比させて話していて、つまり世界の形すら正確に把握できなかった時代から、地球が実際にどう繋がっているかが体感できる時代になった、という話として「四海比隣」という言葉を使う。四方の海の向こうが隣人になった、という状態です。そしてこの時代に生まれたことを「幸運」と言っている。[pause] ここで一段めくって考えたいのは、「繋がれた」と「わかり合えた」がイコールじゃないという話で。渋沢が言う「天然の抵抗の征服」は、物理的距離の話として読む必要があって、「四海比隣」は地理的接近のことであって、文化とか価値観とか信頼とか、そういう次元の接近のことを言っていない。渋沢はここで「だから世界は一つになった」とは言っていないんですよ。「その状況に生まれた幸運」という言い方に、あくまでとどめている。これ、読み方として重要だと思っていて、現代で起きていることに重ねると見えやすくて。たとえば海外に拠点を出す時、今のビジネス環境だと、資金調達も、コミュニケーションツールも、物流も、インフラとして相当整っている。で、「環境は揃った、あとはやるだけだ」と動いて、現地との信頼形成のところで詰まる、というのはそんなに珍しいパターンじゃない。ビデオ通話で毎週顔が見えていても、会議の場でこちらが「合意した」と思ったことが向こうには「まだ検討中」だった、みたいなことは起きるわけで、物理的な抵抗は下がっても、人間が作る抵抗は別のレイヤーにある。渋沢が言った「天然の抵抗」は確かに征服できた。でも、人間が作り出す摩擦、文脈の齟齬、信頼のコスト、これはインフラで消えない。渋沢の「天然の抵抗」という言葉が物理的なものに限定して使われている点は、実はちゃんと読まないと見落とすんですよ。それから補足として、「幸運」という言い方の持ち方の話をしておきたくて。渋沢はこの時代に生まれたことを幸運と言うんですが、「ぼくがやった」とは言っていない。時代の構造を外から見て、正直に記述している言い方で、これは渋沢の観察スタンスとして割と一貫しているなとぼくは思っていて、「天然の抵抗の征服」を自分の功績として語っていない、という点は確認しておく価値がある。

closing

渋沢の言う「天然の抵抗の征服」は、物理的距離の話として読むと、かなり正確に意味が通る。でね、現代の文脈で問い直すなら、あなたが今直面している「抵抗」は、天然のものか、人間が作り出したものか、という話になってくるんですよ。場所の問題なのか、ツールの問題なのか、それとも誰かとの文脈の齟齬が積み重なったものか。[pause] その区別をしないまま「環境を整えれば解決する」と動いていないか。そこをちょっと問いとして渡しておきます。次回も『実業と士道』章から、別の角度で読み解いていきます。「論語と算盤を読み解く」でした。

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