
論語と算盤を読み解く
RIO
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えーと、今日はちょっと蒸し暑くて、スタジオに来るまでに少し頭がぼんやりしてたんですよね。で、そういう時に限って読む本が重くなる。まあ、そういうもんですよね。今日は渋沢栄一の『論語と算盤』から、「理想と迷信」という章を読んでいきます。「理想」と「迷信」、この二つが同じ章に同居しているっていうのが、まずちょっと面白いなとぼくは思っていて。で、渋沢がこの章で問うているのは「文明とはそもそも何か」という、一見シンプルな問いなんですが、答えを出そうとすると途端に手が止まる。「文明国家」って言葉は響きが整っているじゃないですか。でもその整った響きの中に、渋沢は罠を見ていた。今日はその罠の話をしていきます。[pause]
まず原文の構造から入りましょう。渋沢は「文明の条件」を二つの層に分けているんですよね。ひとつは外形、つまり国体とか制度とか法律が整っているかどうか。もうひとつは内実で、国民の知識と能力のこと。で、この内実をさらに「富実」と「強力」の二つに分けていて、この二者の均衡が崩れた状態は本物の文明ではないと言っている。えーと、「富実」ってのはざっくり言うと経済的な豊かさの実質、「強力」はそれを守り動かす力、というイメージで捉えてもらえればいいと思います。[pause] で、ここで渋沢が使っている言葉が「治具を張るために富実の根本を減損」なんですよ。治具、というのは文明の器、外形を整えるための道具立てのことで、その道具立てを整えるために、富を生む土台そのものを削っている、という指摘なんです。表面だけ読むと「経済力も軍事力もバランス大事ですよね」という話に聞こえるかもしれないんですが、ぼくはそれだと読み方が浅いと思っていて。渋沢が問題にしているのはバランスの話ではなく、順序の話なんですよね。形を整えることが目的化した瞬間に、手段と目的が入れ替わる、その逆転を指摘している。これ、あなたの周りでも起きていると思いませんか。現代に置き換えると、この「逆転」がいちばんわかりやすく起きるのは、組織の認証や認定を取りに行く場面だとぼくは見ていて、たとえばISO認証とか、健康経営優良法人の認定とか、SDGs宣言とか、そういった「文明の治具」を取りに行くために、現場の人材育成の時間を削ったり、実際のサービス改善の予算を後回しにしたりするケースが出てくる。渋沢の言葉で言えば、「認定を取ることが、その認定が本来評価しようとしていた実力そのものを食いつぶす」という構造になっていて、これは渋沢の時代の日本が「文明国として見られるための装備」を急ぎすぎた話と、形としてはまったく同じなんですよね。で、ここで誤解してほしくないのは、渋沢は「治具を張るな」とは言っていない、ということで。「根本を減損して顧みぬ」ことを問題にしているんです。形が悪いのではなく、形と実の順序と比率が崩れているという話。それ、本当ですか、って自分の組織に向けて聞いてみると、意外と答えに詰まる場面があると思う。で、もうひとつ、「権衡を得る」という表現があって、これは天秤のイメージなんですよね。富実だけでは富んでいるだけ、強力だけでは力があるだけで、この二者が同時に釣り合っている状態を「真の文明」と渋沢は呼んでいる。さらに言えば「知識と能力」という言葉も同じ構造で、知識だけ持っていても、それを動かす能力がなければ実体にならない。つまり渋沢の見方では、文明というのはひとつの到達点ではなくて、動的な均衡の状態として捉えられているんです。これ、組織の話にそのまま置けますよね。研修で知識を与えて終わり、という会社と、その知識を現場で動かせるかどうかまで見ている会社では、同じ「社員教育をしている」という状態でも、中身がまるで違う。そしてもうひとつ気になるのは、渋沢自身が「合本主義」で実際にいくつもの事業を立ち上げた人間だということで、「富実」を言葉として語っただけでなく、実際に動かした経験がある。形を整えることの危うさを一番よく知っているのは、形を整えることに成功した人間かもしれない、とぼくは思っていて、そこに経験則としての重みがある気がするんですよね。
最後に、ちょっとだけ聞かせてください。あなたの組織や仕事の場面で、「治具」を整えることに使ったコスト、時間でも、人でも、予算でも、思い浮かべてみてほしいんですよ。で、その時間と並行して、「根本」を育てること、つまり実際の能力とか、現場の人間が動けるための環境とか、そういうものが同時に育っていたか。どちらかが他方を食っていなかったか。ぼくはここで断定をするつもりはなくて、ただその比率を一度測ってみる価値はあるんじゃないか、という問いとして置いておきます。次回も「理想と迷信」章から、別の角度で読んでいく予定です。今日と同じ章なんですが、渋沢の言葉は一回読んだだけでは底が見えない、というのがぼくの正直な感想なので、もう少し付き合ってみてください。「論語と算盤を読み解く」でした。
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