
論語と算盤を読み解く
RIO
TAP TO PLAY
このエピソードをシェア
こんにちは、論語と算盤を読み解く、です。えーと、今日ちょっと収録前に外をぶらぶら歩いてたんですけど、商店街の空き店舗に、でっかく「チャレンジ募集中」って貼り紙が出てて、まあそれ自体はよくある話なんですが、隣の貼り紙が「現状維持で十分」みたいな、地元密着を売りにする別のお店のポップで、並んでると妙にシュールだなと思って。[pause] で、今日の本題がまさにその話に近いんです。「理想と迷信」章から、「発展の一大要素」という節を読みます。これが書かれたのは明治から大正へ切り替わる時期で、渋沢がまさに時代の空気そのものを問題にしていた頃のテキストです。当時の世論的なムードとして、もう十分やった、守っていけばいい、という「守成でいい」という感覚があって、それに渋沢が正面から異議を唱えた文章、というのだけ先に置いておきます。中身は一緒に読み解いていきましょう。
まず原文の構造から整理します。渋沢の問題設定は単純で、国土は限られていて、人口は増え続けている、このまま国内だけを見ていたら詰まるよね、という認識から始まっています。で、その解として二本柱を出してくるわけです。一つは国内の農法を改良して、土地と資源から最大限に引き出す。もう一つは、海外へ民族的に発展する道を開くこと。具体的には北米との関係改善を名指ししていて、そこで気になるのが「嫌われる人民にならないように」という言い回しで、国民の振る舞いそのものまで射程に入れているんです。[pause] ここで一段めくります。表面だけ読むと、これは「海外に出よ」「積極的に展開せよ」という行動論に見えるんですが、渋沢が実際に後半で強調しているのは、嫌われる人民とならぬよう心掛けること、つまり振る舞いと信頼の話です。この訓話の重心は「どこへ行くか」ではなくて、「どう見られ、どう関係を結ぶか」にある、とぼくは読んでいます。で、これが現代でどう骨抜きになるかというと、「グローバル展開」「海外進出」という行動目標だけが組織のスローガンになって、相手国や相手先との関係の質に関する話が抜け落ちる。渋沢が一番気にしていた部分が、スローガン化によってきれいに消えていくわけです。現実のビジネスで言うと、海外に拠点を出した企業が現地スタッフや取引先との摩擦を繰り返して、最終的に撤退するケースというのは珍しくないですよね。あなたも聞いたことがある話だと思います。失敗の振り返りで語られるのは「市場調査が甘かった」「規制対応が遅れた」という構造論が多いんですが、現場レベルの話を聞くと、「信頼関係を作る前に数字を取りに行った」という話がかなりの頻度で出てくる。渋沢の言う「嫌われる人民にならぬよう」というのは、お辞儀の角度とか個人の礼儀の話ではなくて、先方にとって一緒にいる価値があるかどうか、という関係設計の話として読むのが正確だとぼくは思っています。それ、本当ですか、と自分でも問い直したくなるくらい、この読み方は現代の組織行動に刺さるんです。[pause] で、最後に「守成を排せ」という主張の実質です。これ、単なる積極論に聞こえるんですが、渋沢が言っているのは、現状維持を選択することで、すでに詰まっている構造がさらに詰まっていく、という構造的な必然の話です。根性を出せ、ではなくて、詰まるから動かざるをえない、という認識論なんです。ただし、拡張すれば勝てるとは一言も言っていない。拡張の方向と、その過程での関係の質、この二つがセットで語られている点は、今の読み方でも落とさないようにしたいところです。
まとめると、渋沢がこの節で「発展の要素」として挙げたのは、土地でも資本でも技術でもなくて、どう振る舞い、どう見られるかという関係の話でした。で、一つ問いとして置いておきたいんですが、あなたの組織が「外に出る」とき、一番最初に考えているのは何ですか。機会の話ですか、それとも相手にとって自分たちがどんな存在であるかという話ですか。次回も「理想と迷信」章から読みます。論語と算盤を読み解く、でした。
← PREV
NEXT →
ARCHIVE
論語と算盤を読み解く の他のエピソード