論語と算盤を読み解く
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EPISODE· 2026年7月29日

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こんばんは。今夜もはじまりました、論語と算盤を読み解く。えーと、今日ね、スタジオに来る前にコンビニ寄ったんですよ。で、レジのとこに「今だけ」って書いてあるポップが、まあ三種類くらい並んでて。今だけ、っていう言葉が、今日の話とちょっと繋がるなと思って、まあそれだけの話なんですけど。[pause] 今夜扱うのは『立志と学問』という章です。渋沢栄一が論語と算盤を書いたのは明治末から大正にかけて、日本が西洋に追いついた、追いつきつつある、という空気が漂いはじめた時期で、国全体がちょっと自信をつけかけていた頃。そのなかでこの章に、「現在に正しく働け」という言葉が出てくる。これ、どういう意味なのか。今夜はそこを追っていきます。

reading

まず渋沢が何を見ていたか、というところから整理したい。徳川時代の武士教育というのは、修身斉家と経世済民がセットになっていて、自分の人格を磨くことと、社会に対して責任を果たすことが、分けて考えられていなかった。ぼくはこれ、構造としてかなりよくできていると思っていて、個人の内面と外の世界への働きかけが、同じ軸に乗っかっているんですよね。明治になって、渋沢自身も科学や物質文明の吸収を強く推し進めた側の人間です。一橋高等商業学校の設立にも尽力しているし、実業の世界に人材を送り込もうとしていた。その推進者だった渋沢が、「精神老衰」という言葉をこの章で使っている。物質の進歩と精神の成熟が、同じ速度で走れなかった、というのが渋沢の観察で、ぼくはこれを読んだとき、まあ辛辣だなと思うと同時に、言っている本人がその加速の当事者でもあるという点が面白いな、と感じた。[pause] 次に「現在に働け」という言葉の意味を、もう少し正確に見ておきたい。あなたもこの言葉を聞いたとき、マインドフルネス的な、今この瞬間に集中しよう、過去を引きずるな、というニュアンスで受け取らなかったですか。ぼくは最初そっちに引っ張られた。でも渋沢の文脈はそうじゃない。渋沢が言っているのは、今の行為が人格をつくる、という因果の話で、現在から未来への積み上げの話なんですよ。「いつかちゃんとしよう」「環境が整ったら動く」——これを渋沢は問題にしている。で、誤読のパターンとして、「今を楽しめ」「過去を捨てろ」という軽い読み方をすると、それ、本当ですか、という話になる。渋沢が最も嫌った「仁義道徳の形骸化」、つまり言葉だけ残って実質が抜けていく状態と、構造的に同じになってしまう。 実際の渋沢の行動を一つ持ち出すと、一橋家に仕えた渋沢の最初の職は「奥口番」で、これは最下級の番方です。今の言葉で言えば、入って一番下のポジション。その身分のまま、財政難に苦しんでいた一橋家のために、徳川慶喜へ財政再建策を自ら進言している。身分が上がったら動く、ではなく、今の持ち場でできることを考えて実際に動いた。ただ、これを美談として置くのはちょっと違くて、ぼくが気になるのはなぜ通ったか、という部分で、下の身分からの進言が機能したのは、内容の質と、機を読む眼があったからだと思う。感情や立場ではなく、一橋家が置かれた状況の構造を渋沢が正確に見ていたから、言葉が届いた。これが「現在に正しく働く」の実践例として一番わかりやすい。[pause] もう一点だけ。渋沢の「精神老衰」という診断を、現代の文脈で読むとどうなるか。渋沢は物質文明を否定していない、むしろ推進者だった、という話はもうしました。批判しているのは、物質的な成果が出ているうちは内部の腐敗を直視しない、という習慣の話で、データで見ると、逆なんですよね——成果が出ているときほど、精神面の更新を後回しにしやすい。これは明治という特定の時代の話じゃなくて、組織でも個人でも、進歩の局面では繰り返し起きる構造だと、ぼくは思っている。

closing

今夜の話を一回畳みます。渋沢が「現在に正しく働け」と言ったとき、それは「今を楽しめ」でも「過去を切れ」でもなくて、今の行為が人格をつくる、という積み上げの話だった。で、あなたが今「環境が整ったら動く」「身分が上がったら本気を出す」と思っているとしたら、その待っている間に何が先送りになっているか、一度だけ考えてみてほしい。答えを出す必要はない。ただ問いとして、そこに置いておきたいんですよね。次回は『立志と学問』章のもう一つのテーマ、学問の目的と実業の関係というところを追う予定です。「なんのために学ぶのか」という話で、渋沢の答えはたぶんあなたが思っているのとちょっとずれているかもしれない。また聞いてください。論語と算盤を読み解く、でした。

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