
それ、本当ですか
RIO
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えーと、今週ちょっと変なことがあって。コンビニのセルフレジ、使いますよね。おれ最近ほぼそっちしか使ってないんだけど、きょう袋ありで登録したのに、なんか途中でエラーが出て、でも袋代は引かれてて。店員さんを呼んだら「もう一度最初からやり直してください」って言われて、まあそれはわかるんだけど、袋代はどうなるんですか、って聞いたら「えーと、わかりません」って。[pause] 悪意はないんですよ、あの人に。でもシステムの欠陥を、呼ばれた人間がいちばん困る設計になってる、というのは、ちゃんと記録しておきたい。で、そういう話を今夜するつもりはないんだけど、なんか今週ずっとその感じが続いてて。「うまくいかないのは、あなたの使い方が悪い」って言われ続ける感じ。今夜はそのあたりを少し、ゆっくり解体したいと思います。
今夜の解剖台。「努力は裏切らない」。まあ、きいたことのない人はほぼいないと思うんですよね、この一文。自己啓発の本、スポーツ選手のインタビュー、就活の面接対策サイト、子育てのコラム、あらゆるところに出てくる。で、おれがずっと気になってるのは、この言葉を「言う側」にとって何が便利か、っていう話で。結果が出なかったとき、「努力が足りなかった」で全部説明できるんですよ。構造の問題、運のタイミング、情報へのアクセス格差、そういう話が全部、きれいに消える。[pause] 便利なんですよ、あの言葉は。言ってる側にとって。 で、アンジェラ・ダックワースの「グリット」、やり抜く力の研究って、あれすごく有名で、あなたも本で読んだか名前だけきいたことあると思うんだけど、後続の研究でちょっと違う話が出てきてて。クレデたちが二千十七年に発表した分析では、グリットが成果を予測する効果の大きさは、思ったよりずっと小さくて、しかも領域によってばらつきが大きい、っていう批判が出てる。おれが言いたいのは「努力は無意味」じゃないんですよ。そこは混同しないでほしい。「努力だけで説明しようとする言葉の危険」に絞りたい。 で、えーと、去年ちょっと変な体験をして。地元の自治会の役員決めを傍聴したんですよ。なんとなく気になって。そしたら構造が完全に固定化されてて、熱心にやる人が毎年同じポジションを押しつけられる、で、表彰もなく、謝礼もほぼなく、「あの人は熱心だから」の一言で消費されていく。それを横で見てた人たちは別に怠けてるわけじゃないんだけど、結果として一人の人間がすべてを引き受ける構造が、誰も批判しないまま定着してる。あの場で正確だったのは「努力は裏切らない」じゃなくて、「努力する人は便利に使われる」だったんですよ。[pause] で、その人はたぶん来年も同じポジションにいる。 「努力は裏切らない」と言うとき、それは誰の経験から来てる言葉か。報われた側の人間が、報われた後に振り返って言ってないか。それ、本当ですか。おれはこの言葉が努力した人への言葉だと思ったことが一度もなくて、どちらかというと、結果を説明したい人のための言葉だとずっと思ってる。努力の否定じゃない、でも「その言葉が何を隠しているか」は、問い続けていいと思う。
今夜は便りが届いていないんですよ。で、まあそういう週は、おれが自分で引っかかったことを代わりに置くことにしてて。 最近、研究の査読コメントをもらったんですね、ひとつ。内容としては方法論への指摘だったんだけど、書き方が「この結果はあなたの設計の甘さによるものではないか」みたいなトーンで、まあ言い換えると「お前の努力不足じゃないのか」に近い文体だった。で、査読者の指摘が正当なこともある、それは認める。でも「方法論の問題」と「著者の怠慢」を混同した書き方を、匿名で、しかも返答する義務のない立場でやれる、っていう構造の問題は、指摘の正当性とは別の話なんですよ。おれはあのコメントを読んで、まず「自分が悪かったのか」と思った。そのあと「いや、これ、だれかの主観を構造が補強してるだけじゃないか」と気づいた。[pause] 「努力が足りない」は、構造の欠陥を個人の問題に変換する、いちばんコストの低い説明なんですよ。職場でも、査読でも、SNSでも、文法は全部おなじ。 あなたが最後に「自分の努力が足りなかった」と思ったとき、その前に「構造がおかしかった可能性」を一秒でも考えたか。おれはあのコメントをもらってから、さんじゅうびょうくらい、考えるのをやめてた。
今夜の核心をひとつだけ置いておくと、「努力は裏切らない」は、努力した人への言葉じゃなくて、結果を説明したい人のための言葉かもしれない。 で、今週のお題。今週、自分が「もっと頑張ればよかった」と思った場面を一つ、思い出してほしい。そのとき、頑張る方向は正しかったか。量の話をする前に、方向の話を、だれかとしたか。[pause] 次回、もし便りが来たら、その話を聞きたいと思ってる。 「それ、本当ですか」。また来週。
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