
それ、本当ですか
RIO
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えーと、今週ね、セルフレジで手間取りまして。コンビニの。袋に入れるタイミングが毎回わからなくて、結局店員さんに来てもらうっていう、あれなんなんですかね。セルフじゃなくなってる。まあそれはいいんですけど。で、その帰りにスマートフォンをぼーっと見てたら、流れてきたんですよ。動画が。
キャプションに「あの選手が金メダルを取れたのは、諦めなかったから」って書いてあって、映像は感動的で、音楽もついてて、再生数もかなり回ってた。おれが見たとき、たしか百七十万回ぐらいだったかな。で、動画を最後まで見て、ああ、なるほどと思ったんだけど、同時にひっかかりが残って。その「諦めなかった人」、他にも無数にいるはずで、その人たちへの言及がゼロなんですよ。存在しないことになってる。[pause] 生存者だけをピックアップして、物語を完成させる。その編集の構造が、違和感の正体だったんですよね。きょうはその話の、もう少し奥にあるものを見ていこうと思います。
今夜の解剖台は「やる気があれば結果は出る」という言葉です。あなたも一度は言われたことがあるんじゃないですか。あるいは、言ったことがあるか。どっちにしても、この言葉、ものすごく流通してる。上司が部下に言う場面、自己啓発本の帯に書いてある、負けた人へのコメントとして使われる——とにかくよく見かける。で、この言葉の構造って、やる気という変数にぜんぶを帰着させるんですよ。結果が出たのはやる気があったから、出なかったのはやる気がなかったから。それだけ。非常にシンプル。
でね、何をスキップしているかって話をしたくて。やる気と結果の「あいだ」には、じつはたくさんのものがあるんですよ。時間、お金、情報、人脈、環境、タイミング、それからその業界とか職種とか社会とかが持っている構造的な参入しょうへき。これ全部、やる気とは別のはなしで。心理学には「ないてききぞくバイアス」という概念があって、成功も失敗も、本人の資質に帰属させる認知のくせのことを言うんですけど、組織行動論の「とうせいのしょざい」、英語だとlocus of controlと呼ばれる研究の文脈では、外的要因が大きい状況でも内的帰属を促す文化的圧力があると、失敗した人が二重に傷つくということが示されています。結果が出なかった、それに加えてやる気がなかった人、という見られ方をされる。ふたつのダメージが同時に来るわけです。[pause] これ、研究の話として言ってるけど、おれはこの構造、けっこう残酷だと思ってますよ。感情の話として。
まあ、スケールが急に落ちるんですが。うちの近所の自治会に、年にさんかいぐらい清掃活動があって、去年から参加者がかなり減ってるんですよ。で、自治会長がまわりんばんに書いたコメントがあって、「やる気と地域愛があれば参加できるはず」って。おれそれ読んで、まあ、嫌いじゃないんですよ、その自治会長のこと、正確には。ただ雑なんですよ。日曜のあさはちじですよ、集合が。共働き世帯がある、小さい子どもがいる世帯がある、夜勤明けの人もいる。参加できない「かたち」の理由が、構造としてそこにあるのに、やる気の問題として処理されると、参加しなかった側が黙るしかない空気になるんですよ。言い返す言葉がない。「やる気なかったんです」って認めることになってしまうから。
便利なんですよ、あの言葉は——言った側の責任が、きれいに消えるので。
で、ここで問い直したいのが、原因と結果の順番のはなしで。やる気がなかったから結果が出なかったのか、それとも結果が出なかったから「やる気がなかった」という解釈が後から乗っかったのか。[pause] これ、逆かもしれないんですよ。結果という事実があって、そこに「やる気」という説明が貼り付けられる。そっちの方向の話って、あまりされないんですよね。
お便りコーナーです。今週は届かなかった。それだけです。ただ、このトピックで必ず来る反論の構造がありまして、類型として話させてください。「でも実際に努力して成功した人がいる、それは否定するのか」というやつです。これね、今夜の解剖台と同じ構造を持ってるんですよ。成功した人の努力は見えるんですよ、はっきりと。でも同じだけ努力して成功しなかった人は見えない。いないことになってる。さっきの動画と、まったく同じ編集がかかってる。
おれは個人の成功体験を否定したいわけじゃないんですよ。それは本物だと思う。問題は、その体験を「ふへんてきな法則」として語り始めたとき。「おれがやれたんだから、あなたもやれる」——この一文の中で、両者のしょきじょうけんの差が完全に消えてるんですよ。スタートラインが同じかどうか、その検証が抜けてる。[pause] で、それを言われて、黙ったことがある人——その沈黙は何だったと思いますか。
やる気は変数のひとつに過ぎない。でも「ぜんぶ」にされると、構造が透明になる。見えなくなる。それ、本当ですか。今夜のお題です——あなたが「やる気の問題」と言われたけど、本当はやる気じゃなかったと思う場面、ひとつ思い出してみてください。次回また、ここで。番組は「それ、本当ですか」でした。
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