
それ、本当ですか
RIO
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えーと、きょうね、コンビニのセルフレジで、なんかうまくいかない商品があって。バーコードをなんかいスキャンしても通らなくて、で、店員さんを呼んだんですよ。そしたら「ありがとうございます、ご不便おかけしました」って言って、端末をさっと操作して終わり。まあそれはいいんですけど、その後ろに「ご意見はアプリのフォームから」って書いてある小さいポップがあって。おれ、ちょっと止まったんですよ。フォームって、誰が見てるんだろうって。——まあそれは置いといて。きょう本題でやるのは、フィードバックの話です。もうちょっと正確に言うと、「言いやすい環境」って本当に意味があるのかって話を、まあ静かにやります。
この十年で、人事界隈とか組織開発の界隈で何度も出てくる言葉があって。「心理的安全性」「一対一(ワンオンワン)」「匿名サーベイ」「オープンなカルチャー」——まあ全部知ってますよね。で、これ全部、何に集中してるかというと、「言う側の環境整備」なんですよ。言いやすくする。話せる場を作る。安心して発言できる雰囲気にする。そこで止まってる。 おれが引っかかるのはそこで、送信側のチャネルと、受信側の行動変容は、まったく別の問題じゃないですか。なのにこのふたつを、ひとつの施策で一気に解決しようとしてる。それが構造的におかしい、っていうのがきょうの出発点です。 データで見ると、逆なんですよね。ジェームズ・デタートとエイミー・エドモンドソンが二千十一年に出した研究があって、要するに何を言ってるかというと、心理的安全性の「環境」が整備されていても、上司がフィードバックを受けた後に防衛したり、無視したり、形式的な謝辞だけ返したりを繰り返すと、沈黙はまた生まれ直すって話なんですよ。で、ここが重要な反転なんですけど、発言を抑制するのは「個人の臆病さ」じゃなくて、「言っても聞いてもらえなかった経験」から学習された、合理的な行動だってこと。合理的なんですよ、あの沈黙は。 [pause] ちょっとスケールが急に落ちる話をするんですけど。去年、うちの自治会の総会で、議長の人が「何でも言ってください」って言って、意見箱を設置したんですよ。玄関の横に。段ボールに切り込み入れた素朴なやつ。で、ある住民の人が前の月に駐輪場の問題を書いて入れた。そしたら翌月の班長の割り当てで、その人だけなんか微妙にめんどくさい担当になってて。因果関係はわからないですよ、おれも確認してない。でも箱は、そこから一年間、空のままでした。組織論でやってることが、回覧板のレベルで完全に再現されてる。 便利なんですよ、あの箱は。設置した側にとって。 [pause] で、もうすこし構造の話をすると、「言いやすい空気を作った」という事実が、「聞く側が変わっていない」という問題を、きれいに隠すんですよ。施策の存在が、問題の不在の証拠にすり替わる。これ、誠実さの欠如というよりは、測定できることだけやる組織の習性なんですよね。一対一の実施率は測れる。でも、受け取った側がそのフィードバックで何を変えたかは、測りにくい。だから測らない。で、「導入しました」が成果になる。 それ、本当ですか。あなたの組織の一対一や匿名サーベイで、フィードバックを受け取った側が何をしたか——記録されてますか。
きょうはお便りがありません。淡々と言います、ない。 ただちょっと面白いな、と思ったのは、このトピック——フィードバックについての悩みって、SNSでも職場の話題でも本当によく出てくる話なのに、なぜきょうは投稿がなかったのかってことで。 ひとつの可能性として、こういうことがあるかもしれない。あなたも、この番組に何かを送ろうとして、一回考えたかもしれない。「どう受け取られるだろう」って。ラジオへの投稿ですら、そういう計算が、無意識に入ってたかもしれない。——まあ断定はしません。「かもしれない」で止めます。でも、言いやすいはずの匿名の場でも、受信側への不安が抑制をつくるとしたら、それはきょうの話とまったく同じ構造じゃないですか。 来週以降もやります。便りがあればやります。
きょうの話を一言で圧縮すると——箱を作ることと、箱を開けることは、別の勇気がいる。 最後にひとつ、持ち帰って考えてみてほしいことがあって。あなたが職場でも家庭でも、何かを言うのをやめた瞬間がある。そのとき、やめた理由は「言いにくかったから」でしたか。それとも、「言っても変わらないと、もう知っていたから」でしたか。 「それ、本当ですか」。
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