
それ、本当ですか
RIO
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えーと、今週ね、おれ近所のコンビニでセルフレジに初めてちゃんと向き合ったんですよ。なんか、袋に入れてから「袋に入れましたか」って聞いてくるやつ。入れてから聞くんかい、と。で、「はい」を押したら「ありがとうございます」って言われて、なんかこう、変な達成感があって、それがちょっと嫌でしたね。おれは何を承認されたんだ、と。まあそれはいいとして。今週のSNSで流れてきた話なんですけど、「朝ごじに起きるのをさんかげつ続けたら人生変わった」っていう投稿があって、でね、内容を読んだら、何が変わったかというと、「早く起きられた自分のことが好きになった」、それだけなんですよ。何かが変わったのか、自己イメージが変わっただけなのか、その区別が一切ない。今夜はその辺を少し分解してみます。
「はやおきはさんもんのとく」って言葉、あるじゃないですか。成功者は朝型、みたいな言説もずっとある。これ、まず何を言っているかを正確に置いておきたくて、批判じゃなくて確認として。あの言説が言ってるのは「早く起きること自体が価値だ」ってことですよね。でもよく見ると、称賛されているのは「生産性」じゃなくて、「睡眠を削って動ける意志力」なんですよ。つまり、耐えられること、そのものが美徳になってる。これはちょっと、立ち止まって見た方がいい構造です。[pause] で、データを入れますね。マシュー・ウォーカーという睡眠研究者が二千十七年に出した本で、ろくじかん以下の睡眠をつづけた被験者の認知パフォーマンスは著しく低下する、ということが示されています。でね、ここが逆説的で、おれが一番おもしろいと思うところなんですけど、睡眠負債が蓄積するほど、本人が自分の低下に気づけなくなる。「ねむくない、大丈夫」ってなってる状態が、すでに壊れた状態なんですよ。感覚が先に死ぬ。便利ですよね、「ねむくないから大丈夫」って言葉は——言ってる本人が一番信じてるから。先月ね、町内会の回覧板が回ってきて、「早起き健康週間」みたいな紙が挟まってて、全員ハンコが押してあったんですよ。おれは押さなかったんですけど、後で班長に「体調管理、大切ですよね」って言われて。おれは何もしていないんですが。まあいい。構造は同じです。[pause] で、核心の話をすると、長時間労働とか、過密なスケジュールとか、そういう組織や社会の構造の問題が、「朝をうまく使えるかどうか」という個人の意志力の問題に変換される、そのすり替えが起きてるんですよね。睡眠負債っていうのは、「なまけ」の結果じゃなくて、多くの場合「余白のなさ」の結果です。でね、このすり替えが機能するのは、当事者の本人が信じ込むから、なんですよ。「おれが意志力で解決すれば変わるんだ」って思える、その感覚自体が、睡眠不足によって既に壊れた判断力から来てる可能性がある。だとすると、朝ごじに起きている人が成果を出しているのは、早起きのおかげなのか。それとも、早起きできる環境と労働量と裁量を、もともと持っているからなのか。おれは答えを出しません。でも、あなたが今どっちの状況にいるか、考えてみる価値はあると思います。
今夜は便りが届いていないので、おれが自分で問いを立てます。よくある反論として、「でも実際、早起きして成果を出してる人はいるじゃないか」というのがあって、これ、正しいんですよ。いる。おれも否定しない。ただ、何が変数かを問いたいんですよね。「早起きしたから成果が出た」のか、「裁量のある職種で、収入も安定していて、子育てや介護のような制約が少ない、だから早起きが可能で、結果として成果も出る」のか。因果と相関を混同したまま「朝型が勝つ」と語る、その語り方が雑だ、という話です。人を攻撃してるんじゃなくて。嫌いじゃないんですよ、早起きしてる人のこと。ただ、語り方が雑なんですよ。それで、もうひとつ。「早起き習慣」を売る本とか、セミナーとか、SNSアカウントが存在する理由なんですけど、「構造を変えろ」という話は、売りにくいんですよ。誰も買えないし、売る側も困る。でも「個人が変われ」は、売りやすいし、買いやすい。あなたが明日ごじに起きれば何かが変わるかもしれない、という話は、一冊千五百円で売れる。「あなたの会社の残業構造を変えろ」は、一冊千五百円では売れない。データで見ると、逆なんですよね。「習慣を変えた成功者」として語られる人たちの多くは、習慣を変える前に、すでに変えられる条件を持っていた。だから最後に問い返しておきます。あなたが「朝、起きられない」と感じるとき、それは本当に意志の問題ですか。
今夜の核心を一文で言うと、「はやおきは美徳じゃない、はやおきできる構造が、美徳に見えているだけだ」。リスナーへのお題です。今週いちしゅうかん、自分が何時間眠れているかだけ記録してみてください。評価しなくていい。良い悪いを判断しなくていい。ただ数えるだけ。その数字が、あなたの今の構造を正直に教えてくれます。「それ、本当ですか」。また来週。
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