論語と算盤を読み解く
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EPISODE· 2026年9月15日

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opening

えーと、今日ね、スタジオに来る前にコンビニに寄ったんですよ。で、レジで「ポイントカードはお持ちですか」って聞かれて、「持ってない」って言ったら、「では次回ご利用の際はぜひ」って、もう完璧なトーンで返ってきたんですよね。まあそれが正しい対応なんだけど、あの受け答え、マニュアルの精度はすごくて、でも、あの店員さんが今ポイントカードをぼくに勧めながら何を考えていたか、まったくわからない。それが今日の話と、実はつながっているんですよね。今日は『論語と算盤』の「人格と修養」章を読み解いていきます。渋沢栄一が「成功」という言葉を、ぼくたちが普段使う意味とはちょっとずらして再定義しようとしていた、そこに入口があって。で、この章が書かれたのはざっくり明治後期から大正にかけてのことなんですけど、問いの立て方がなんか、今と似ているんですよね。何がどう似ているのか、それは中身を読みながら話していきます。

reading

まず渋沢が何を批判しているのか、ちゃんと確認しておきたくて。よくある読み方だと「若者の怠惰を叱っている」みたいに受け取られるんですが、それ、本当ですか、という感じで。実際に本文を読むと、渋沢が問題の原因を置いているのは、個人じゃなくて社会全体の人格修養の仕組みが整っていない、という構造の側なんですよね。個人が堕落しているんじゃなくて、時代の空気や仕組みそのものが人格を育てることに向いていない、という問題設定で。これ、結構大事な読み直しで、ぼくはここに渋沢の誠実さを感じるんですよ。責任を個人に帰さないで、仕組みに目を向けている。[pause] で、渋沢がこの章で言っていることの核心は「忠信孝悌の道」と「智能啓発」を組み合わせることで初めて完成する、という構造なんです。忠信孝悌、つまり誠実さとか人への礼節とか、そういう道徳の軸だけでは足りない、と言っているわけで、かといって知識や能力だけでも足りない、両方が揃って初めて「正義正道に基づいた行動」ができるんだ、と言っている。まあこれ、言葉で聞くと「そうですよね」ってなるんですけど、問題はこれが現代の組織の中でどう骨抜きになるか、なんですよね。たとえばあなたが今いる会社やチームで、「人格を養う」という目標を立てたとする。そうすると多分、次に出てくるのは「では評価の基準を決めましょう」「研修のプログラムを作りましょう」という話になると思うんですよ。礼儀正しさが観察できるか、コミュニケーションが円滑か、協調性があるか——これを測る形式を整えると、それが「人格養成が完了しました」の証明になっていく。でも渋沢が言っていた人格って、外から観察できる行動のパターンじゃなくて、「自分が正義正道かどうかを、自分の頭で判断できるか」という内側の基準の話なんですよね。外形のチェックリストが整えば整うほど、内側に問いを立てる必要がなくなる——これが骨抜きの構造で、ぼくはこれがちょっと怖いと思っていて。[pause] で、これ、一般論じゃないんですよ。コンプライアンス研修を年に複数回ちゃんとやっていて、受講完了率も高くて、でも組織的な不正や情報隠蔽が起きる、という話は繰り返し世の中に出てくる。研修の受講履歴が「人格養成の証拠」として機能し始めると、渋沢が言った智能啓発——自分の頭で正誤を判断する力を鍛えること——は、実はどこにも入っていない。むしろ、形式が整えば整うほど「自分はどう判断するか」を問う機会が減る、という逆説になっている。あなたも、研修の終わりに確認テストがあって、それに答えたら「修了」になった経験、あるんじゃないですか。で、最後に渋沢の結論の読み方なんですけど、「高尚なる人格を以て正義正道を行ひ」というフレーズ、これを読んで「富や地位を否定しているんだ」と取ると、ちょっと違うと思っていて。渋沢自身、実業家として実際に大きな富を積み上げた人なので、富を否定する理由がそもそもない。言いたいのは順序の話なんですよね。人格を持って正義正道を行動の軸に据えて、その結果として得られたものが完全な成功だ、と言っている。人格は手段じゃなくて、人格を持って動くプロセスそのものが、成功の定義に組み込まれている。これ、ぼくは結構するどい再定義だと思っていて、成功を「到達点」ではなく「プロセスの質」で測っている。

closing

というところで、今日の読み解きはここまでにします。最後に、あなたに問いを一個置いていきたくて。あなたが今いる組織で「人格」と呼ばれているものは、内側の判断基準の話をしていますか、それとも外形の話に収まっていますか。で、もう一歩だけ踏み込むと、渋沢の言った「智能啓発」——自分の頭で正誤を判断する力を自分に課す、ということを、あなたは最後にいつやりましたか。研修のテキストに従うんじゃなくて、自分の基準で「これは正しいか」と問うた瞬間、最後にいつだったか。次回も引き続き「人格と修養」章を読んでいきます。番組は「論語と算盤を読み解く」でした。

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