
論語と算盤を読み解く
RIO
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ちょっと今日、収録前に近所のコーヒースタンドに寄ったんですけど、そこで店員さんにすごく丁寧に対応してもらって、でね、帰り道に「あれは本当に丁寧だったのか、それとも丁寧に見える訓練をされていたのか」ってのを考えながら歩いてたんですよ。どっちでもいいっちゃいいんだけど、なんか気になってしまった。で、まあそれが今日の話にそのまま繋がっていくんですけどね。 今日扱うのは「論語と算盤」の中の「人格と修養」、この章です。渋沢栄一がわざわざ「反論」の形で書いている章でね、これ、なかなか珍しいスタイルで、でも考えてみると、それだけ当時すでに「修養なんて古い、意味ない」みたいな声が相当広まっていたってことを示してもいる。誤解が広まってなければ、わざわざ反論なんて書かないので。今日はその誤解がどういう構造だったのか、それを一緒に見ていきます。
さて、渋沢が反論した「誤解」には大きく二つあって、まずひとつ目が「修養は人の天真爛漫を傷つける」という説です。要するに、人間の素のままの良さを修養が削ってしまう、という批判ですね。これに対して渋沢が言うのは、それは修養と修飾を混同しているんだ、ということで。修飾っていうのは外から取り繕うこと、表面を整えること。一方、修養は内側の自然な人性を損なわない、むしろそれを育てるものだという。ぼくはこれ、かなり明確な概念の切り分けだと思っていて、「外」か「内」か、という方向性の違いを渋沢はちゃんと言葉で分けているんですよね。 ふたつ目の誤解は「修養は人を卑屈にする」という説で、これも当時の批判としてあったわけです。礼節を守れとか、敬虔であれとか言われると、それって結局は頭を下げて従え、ってことじゃないかという読み方ですね。でも渋沢の反論はこうで、礼節や敬虔は卑屈じゃない、むしろ己の良知を増して、内側の光、渋沢は「霊光」という言葉を使っているんですけど、その霊光を発揚するものだと言う。 [pause] で、渋沢が修養をどう定義しているかを正確に押さえると、精神・智識・身体の三つを向上させ、練磨し続けること、ということになります。継続すれば聖人の域に達し得るとも書いていて、これ精神論に聞こえるかもしれないんですけど、ぼくはむしろ蓄積論として読んでいて。毎日ちょっとずつ積み上げることで変わっていける、という話なので、根性でどうにかしろというより、継続の構造の話なんですよね。それと、「矯める」という言葉が使われていない点もぼくは引っかかっていて、矯めるっていうのは曲げること、自然な形を変えること。渋沢の修養にはそれがない。伸ばすものとして描かれている。 じゃあ現代に引き寄せて考えると、どうか。たとえばよくある職場の場面で言うと、若手社員が「素直さ・謙虚さ」を求められるシーンがあるじゃないですか。あなたも見たことあるか、あるいは自分がその場にいたかもしれない。で、その「素直さ」の中身が、自分の意見を持たないことだったり、上の人の判断にただ合わせることだったりする場合があって、しかもそれが「あの人は成長している」と評価されるケースがある。でもこれ、渋沢の言葉でいえば修飾ですよ。外から見える態度を整えているだけで、内側の良知を増しているわけじゃない。むしろ良知を封じている。 渋沢が「卑屈にならない修養」を説いたにもかかわらず、今その言葉が「卑屈を強いる文化」の中で名前だけ借用されている、という逆転が起きているとぼくは見ていて、これが渋沢の言う誤解その二が形を変えて組織の中で生き続けている状態じゃないかと思うんですよね。 [pause] で、最後に構造的な見立てとして、なぜ渋沢はこの誤解にわざわざ反論したのかというと、修養批判が広まると、人が自己向上の努力をやめる方向に動くから、というのがぼくの読み方です。実業の場で動く人間に「内側の練磨をやめさせる理屈」が蔓延する、それは渋沢にとって見過ごせなかった。修養を「なるべきものになるための継続的な実践」として捉えていた渋沢にとって、批判への反論は、その入口を守る行為だったんじゃないか。それ、本当ですか、と自分でも問いながら読んでみると、やっぱりそう見えてくる。
ということで今日は「誤解されたる修養説を駁す」を読み解きました。最後に問いを置いて終わります。あなたの職場や日常で「修養」とか「成長」と呼ばれているものは、渋沢の言う「良知を増す練磨」に近いですか、それとも「見た目を整える修飾」に近いですか。どっちだとしても、その違いを自分で見分けられているかどうか、というのが、たぶん渋沢が一番問いたかったことだと、ぼくは読んでいます。次回も引き続きこの章の別の論点を掘るか、次の章に移るか、そのあたりは話しながら決めます。まあのんびり付き合ってください。番組は「論語と算盤を読み解く」でした。
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