
論語と算盤を読み解く
RIO
TAP TO PLAY
このエピソードをシェア
えーと、今日ね、来る前にちょっとだけ雨に降られまして、まあ、傘を持っていったのに途中でやんで、荷物になっただけという、そういう日でした。あなたにも、そういう日ありますよね。[pause] さて、今日のテーマは「仁義と富貴」、要するに孔子とお金の話です。論語と聞いたとき、なんとなく「清貧」とか「禁欲」みたいなイメージが頭に浮かびませんか。お金の匂いのしない、高尚な教えのような空気、あれはどこから来ているんだろう、というのをまず問いとして置いておきたいんです。で、渋沢栄一がこの章で何に噛みついているか、その構図だけ先に言うと、ざっくり言えば「論語の誤読に対する反論」なんですね。その中身を、今日は一緒に読み解いていきます。
まず、渋沢が何を言っているかを正確に取り出すところから始めましょう。儒者たちの間に長いこと流れていた通説がある。「仁義王道」と「貨殖富貴」は相反する、要するに道徳と金儲けは相容れない、という読み方です。渋沢はこれをはっきり「誤読だ」と言うんですね。面白いのは、渋沢が論語を一文字だけ抜き出して結論を出しているんじゃなくて、全篇を検討したうえでそう言っている、という姿勢そのものです。「論語から都合のいいところだけ引っ張ってきた」という話じゃない。[pause] 具体的に渋沢が引く言葉として、「執鞭の士と雖も、吾れ亦た之を為さん」というくだりがあります。正しい道を踏んで富を求めるなら、馬の手綱を取るような低い身分の仕事でも構わない、という意味です。ここで孔子が言っているのは「金を求めるな」ではなく、「どうやって求めるかを問え」ということですよね。もう一つ、「不義にして富み且つ貴きは、我に於いて浮雲の如し」という言葉がある。不正な手段で手に入れた富は浮雲のようなもの、という意味ですが、これは富そのものを否定しているんじゃなくて、手段を否定しているんです。この区別、わりと大事で、ここをひとまとめにしてしまうと「孔子は清貧を説いた」という読み方に流れていく。それ、本当ですか、と問いたいわけです。で、ここから一段めくって考えてみると、現代でもすごく似たパターンがある。「お金より大切なものがある」という言い方です。あなたも会社や組織の中でこのセリフを聞いたこと、一度や二度じゃないんじゃないかと思うんですが、この言葉が、正当な利益追求を自分たちで封じる道具として使われているケースが実際にある。営業の現場で予算が未達のとき、「売上より顧客の気持ちが大事です」という説明がなされる場面、ぼくは何度か見てきました。その言い方自体が間違っているとは言わないけど、手段の問題、つまり「どうやって売るか」への問いを、「金を求めること自体の否定」にすり替えている場合がある。孔子の論理に引き直せば、これは完全に逆転しているんですよね。もう一つ、非営利の看板を掲げることで、経営の透明性への問いをかわしやすくなっている組織の話というのも、構造的にはまったく同じです。「清貧」を盾にすると、「その事業、本当に効率的に動いているんですか」という問いが刺さりにくくなる。渋沢が見ていたのは、おそらくこの逆転の構造だったんじゃないかと、ぼくは思っています。道義的に見せるために利益を否定してみせる、という、実態を伴わない清廉演技の空虚さ。これは特定の誰かの話じゃなくて、組織が自分を正当化するときに使う一般的なパターンとして読める。孔子が問うていたのは、結果としての富ではなく、プロセスの正当性だった、というのが渋沢の読み解きで、そこを論語から引っ張り出して算盤、つまり経営の実践に接続したのが「論語と算盤」という本の骨格です。それから、渋沢自身についても少し見ておきたくて、渋沢は生涯に五百を超える事業に関わったと言われています。そうやって大量に事業を持ちながら「論語で経営を語る」という立場を取り続けたのは、単なる美談じゃないとぼくは見ていて、「金を稼ぐことへの社会的正当性を、自分の手で言語化し続ける必要があった」という文脈で読んだほうが実態に近い気がする。聖人というより、正当化の言語を能動的に作り続けた人として渋沢を見ると、この章の重みがちょっと変わってくるんですよね。
最後に、一つだけ問いを置いていきます。あなたが「清廉さ」を口にするとき、それは本当に「手段への問い」になっていますか。それとも、利益を求めること自体を封じているだけでしょうか。[pause] もう少し補うと、組織が「お金より大切なものがある」と言うとき、その言葉の裏で何が正当化されているかを、一度だけ見てみてもいいかもしれない。押しつけているわけじゃないんですが、まあ、問いとして残しておきます。次回は「士魂商才」の章を読み解きます。武士道と商人道、この二つをどう繋いだのか、という話です。今日はここまで。「論語と算盤を読み解く」でした。
← PREV
ARCHIVE
論語と算盤を読み解く の他のエピソード