論語と算盤を読み解く
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EPISODE· 2026年8月18日

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こんにちは、論語と算盤を読み解く、です。えーと、今日ね、収録に来る前にちょっと古本屋に寄ったんですよ。目的もなくぶらぶらして、渋沢の本が何冊か棚に刺さっていて、まあ値段が100円のものから800円のものまで並んでいて、でも中身はたぶん同じで、その差ってなんだろうってしばらく眺めていたんですけど。版の違いとか状態とか、そういう話なんですけどね。まあそれはいい。今日の本題は「仁義と富貴」の章です。タイトルを聞いて、「仁義か金かという二項対立の話でしょ」と思ったなら、それはまだ手前の読み方で、渋沢が本当に問題にしているのは、金そのものの価値ではなく、金を持った人間の側です。そこだけ先に言っておきます。

reading

では章の中身に入りましょう。渋沢がこの章で言っていることの核心は、わりとシンプルで、「金は善悪の判別力を持たない中立の道具だ」ということです。で、その説明として汽車の切符の例を出していて、まあ明治の文章ですから汽車なんですけど、同じ切符でも、善人が買えば善い目的で使われ、悪人が買えば悪事に使われる、切符それ自体には罪も徳もない、という話です。ここだけ取り出すと、現代でよく聞く「お金は道具」という言い方と重なって見えますよね。でね、それが問題で、ぼくはそこに少し引っかかりがあって、今日の読み解きの軸にしたいところなんですけど、まずもう少し原文を丁寧に追います。渋沢はこの章の中で、俚諺、つまり世間のことわざとして「銭ほど阿弥陀は光る」という言葉を引いています。これ、金があれば何でも叶うという意味合いの言葉ですが、渋沢はこれを金の力を讃えるために引いているわけじゃない。「だからこそ、それを持つ人間の質が問われる」という論の踏み台として使っていて、最後に昭憲皇太后の和歌、「もつ人の心によりて宝ともなり仇ともなる」を章の結論として置いています。これが渋沢の言う「効力の有無は其人に在り」ということです。[pause] それで、渋沢の立ち位置を構造として見ると、これは単純な清貧礼賛でも拝金主義でもなくて、「金を軽視せよとは言っていない、しかし過度に重視するな、だが軽蔑もするな」という双方向の戒めを同時に出している。で、「完全の人」の条件として、金に対して正しい道義心で向き合えることを置いているんですね。これはまず金を持つことを肯定した上での議論であって、その点がわりと見落とされやすいとぼくは思っています。さて、ここからが今日ぼくが一番言いたいところなんですけど、この章が現代でどう消費されているかの話です。「お金は道具だから使い方次第」という言い方、あなたも聞いたことがあると思うんですけど、この言い方、気をつけないと使う側の人格の問題を曖昧にする方向に滑っていくんですよ。大きな寄付をした、社会貢献に投資した、という事実があれば、「良い使い方をした道具論」として話が完結してしまう。でもそれは、渋沢の言う「其人に在り」とは違う話で、結果の話でしかないんです。渋沢が見ていたのは「何に使ったか」という結果ではなく、「その人間が金とどういう心がけで向き合っているか」という過程と姿勢の問題で、それ、本当ですか、という感じで問い返す構造になっている。で、現代の「お金は道具論」は、往々にして運用だとか投資だとか活用法という技術論に着地して、「じゃあ自分の道義心をどう鍛えるか」という問いを置き去りにするんですよ。平時の小さな判断、たとえばどこに払うか、誰に対してどう使うかという積み重ねの中にある心がけの習慣こそが、渋沢が見ていたものだとぼくは読んでいます。[pause] もう一点だけ。渋沢自身が大規模な資本を動かした実業家でもあった、という事実は切り離せない。「其人に在り」と言う本人が、当時の経済界で圧倒的な資本力を持っていたのは実際そうで、これを聖人の言葉として崇めるよりも、「資本を持った人間が、自分自身の人格を問い続けることをやめなかった」という選択の話として読む方が、ぼくにはずっと分析対象として面白い。

closing

まとめというより、問いを置いて終わりにします。あなたの手元にある金、あるいは権限でも情報でも影響力でも構わないんですけど、それは今のあなたの心がけのレベルと、釣り合っていますか。「其人に在り」を技術論で終わらせないために、自分の側を定期的に見直す習慣がそもそもあるかどうか、それが分岐点だとぼくは思っていて、たぶんその習慣を持っている人はわりと少ない。次回も「仁義と富貴」に関連した渋沢の見立てを続けます。論語と算盤を読み解く、でした。

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