
論語と算盤を読み解く
RIO
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こんばんは。今日はね、収録前にちょっと古い本を引っ張り出してまして、えーと、渋沢栄一の関連資料をいくつか並べてたんですけど、まあ読み始めると止まらなくなるやつで、気づいたら結構な時間が経ってた。あなたにもそういう本、一冊くらいあるんじゃないですか。読もうと思って開いたら、関係ない箇所に引っかかって、気づいたら全然違うところを読んでる、みたいな。[pause] で、今夜扱うのは『論語と算盤』の『仁義と富貴』という章でして、この章がちょっと珍しくて、渋沢が「道徳と経済の両立が大事です」みたいな抽象的な話をしているんじゃなくて、海軍の収賄事件という実際に起きた不正を正面から取り上げているんですね。賄賂という、わりと生々しい話に踏み込んでいる。「正しさ」を信条として持つことは、具体的な局面でどこまで機能するのか、という問いを頭に置いたまま聞いてほしいと思います。
まず原文の骨格から整理します。渋沢が出発点に置いているのは海軍収賄事件で、外国の企業だけじゃなくて日本の実業家も賄賂に関与していたという事実に、渋沢はかなりはっきりと失望を示しています。で、そこで引いてくるのが「一人貪戻なれば、一国乱を作す」という古典の言葉で、個人が一人ぐらついただけで、それが国家の安全保障レベルの問題にまで波及するという構造を示している。ぼくがここで面白いと思ったのは、渋沢の結論が制度や法規制の強化ではなく、「実業家の人格向上こそが唯一の根絶策だ」という、人の側に解を置いているところなんですね。えーと、これをどう読むか、というのが今日の核心になります。[pause] 現代の文脈に置いた時に、「人格向上が大事」という渋沢の主張はコンプライアンス研修とか倫理綱領の制定にすぐ読み替えられてしまう。でも渋沢が言っているのはそこじゃない、とぼくは思っていて、渋沢が強調しているのは「相手が賄賂を強要してきたとしても、断る覚悟」なんですね。組織がルールを整備することではなくて、個々の実業家が、その瞬間に「断る」という行為を選べるかどうか、という、きわめて個人の話をしている。受け身で仕組みに頼るのではなく、能動的な拒絶、という話です。で、これがなぜ今も刺さるかというと、現代の企業不正の多くは、担当者個人が「断れなかった」場面から始まっているからなんですよ。取引の継続、昇進、長年の関係維持、そういう圧力の前で、一人の人間が踏みとどまれるかどうか。その構図は渋沢が問題にしていた場面と、まったく同じだとぼくは思っています。コンプライアンス体制が整備されている企業でも不正が起きる理由を一言で言うなら、制度は「断る理由」を与えることはできても、「断る意志」は与えられないから、ということになる。ここが渋沢の指摘と現代の制度設計の間にある、埋まっていない溝だと思うんですよね。それ、本当ですか、と自分に問えるかどうか、という話でもある。具体的な場面で言うと、大型の公共事業や防衛・インフラ関連の調達で、業者側が「慣行だから」と接待や情報提供を続けてきたケース、あなたもニュースで見たことがあるんじゃないですか。担当者個人は「皆がやっている」という認識の中に置かれていて、個人の判断が組織の空気にじわじわと溶けていく。その場に一人でも「ちょっと待ってください」と立ち止まれる人間がいれば、構造は変わりうる。渋沢が「共通信条」という言葉を使った意味は、そこにあるとぼくは読んでいます。個人の信念が、組織の空気を変える起点になりうる、という、かなり実務的な話です。[pause] もう一点だけ付け加えると、渋沢自身が実業界のリーダーとして、同業者に向けて「覚悟を持て」と言える立場にいたという構造も、分析対象として見ておく価値がある。これは上から目線の説教じゃなくて、実業家のコミュニティが自分たちで規範を作ろうとする、いわば仲間内の自治の発言でもある。人格論で終わっているように見えて、実質はそういう話をしているとぼくには見えます。
まあ今日の話をまとめると、渋沢が言っていた「人格向上」というのは精神論でも根性論でもなくて、制度が届かない場所で、個人が実際に「断る」という行為を選べるかどうか、という、かなり具体的な問いだったとぼくは思っています。コンプライアンスの研修を何時間受けても、いざ取引先の担当者から「これ、うちだけの話にしておいてね」と封筒を差し出された瞬間に、何が踏みとどまる力になるのか。制度じゃないとするなら、それは何なのか。人格論を「精神論だ」と切り捨てる前に、制度が届かない場所で実際に機能しているものを、一度考えてみてほしいと思います。あなたが実際にその局面に立ったとき、何があれば踏みとどまれると思いますか。[pause] 次回も引き続き『仁義と富貴』章、もしくは隣接する章から、富と道義の関係をもう少し違う角度で見ていきます。今夜は「論語と算盤を読み解く」、ここまでにします。
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