論語と算盤を読み解く
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EPISODE· 2026年8月17日

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えーと、今日ちょっと話す前に一個だけ言っていいですか。最近ぼくの知人が、ある会社の採用パンフレットを見せてくれたんですよ。で、一面に大きく「誠実・信頼・社会貢献」って書いてあって、まあそれはいいんですけど、その会社が同時期に取引先への支払いを意図的に延ばしていたという話を別の人から聞いていたので、なんとも言えない気持ちになって。言葉と仕組みが一致していない状態というのは、こんなにすっきりしないものか、と思って。で、ちょうど今日読む章がそこに直撃するんです。「論語と算盤を読み解く」、今夜は渋沢栄一の「真正の利殖法」、「仁義と富貴」章を読んでいきます。タイトルからして主張が立っていて、「どうすれば儲かるか」じゃなくて「儲け続けられるのはどういう構造か」を問うている章で、まだ中身には入りません。まず原文のトーンを確認しながら読んでいきましょう。

reading

まず原文の骨格から押さえます。渋沢が「真正の利殖法」で言っていることの核心は、利殖事業は利益の追求と仁義道徳が「相密著」して初めて永続する、という一点です。この「相密著」という言葉、ぼくはここが一番重要だと思っていて、なぜかというと、これは「二つのものを後から組み合わせる」という話ではないからで、最初から不可分だ、剥がれない、という主張なんです。で、渋沢は根拠として宋末、つまり利己主義が蔓延した時代の歴史的な観察を引いていて、「仁義を外した社会は衰退した」と言っている。感情論ではなく、歴史のパターンとして語っているところに、ぼくはリアリティを感じます。[pause] で、ここから渋沢が使う比喩がおもしろくて、鉄道の改札場の場面を出してくるんです。「己れさえ都合が良い」と全員が我先に動いたら、誰も前に進めなくなる、というやつ。あなたも経験ありませんか、ラッシュの改札で一人だけ横から割り込んでくる人がいると、列全体の流れが止まる、あの感覚です。で、渋沢が言いたいのはマナーの話じゃなくて、個人の利益がそもそも他者の協調を前提として成り立っている、という構造の話で、「自分だけ得をしようとすると、自分の利益すら実現できなくなる」という逆説的な因果をここで示しているわけです。これ、言われてみると当たり前なんですけど、当たり前として設計に埋め込まれているかどうかは、まったく別の話で。さて、ここからが今夜の核心なんですが、この章は現代でよく引用されます。ESGとかCSRとかいう文脈で、「渋沢も言っているから道徳は大事だ」と使われる。でもぼくはそこに少し違和感があって、なぜかというと、外側に道徳をラベルとして貼る構造と、渋沢の言う「相密著」はまったく別物だからです。「利益を出した後で社会に還元する」という順番を、渋沢は想定していない。仁義がない利益追求は、そもそも長く続かないと言っているわけで、道徳は事業の外側の飾りではなく、継続性そのものを支える内側の構造だ、という話をしている。[pause] これを実際の場面で考えると、たとえば短期的なコスト削減のために取引先への支払いを恣意的に遅らせたり、品質基準を非公式に少しずつ下げ続けたりした結果、数年後にサプライチェーン全体が機能しなくなった、という状況は、特定の業界に限らずぼくはいくつかのケースで聞いています。逆に、価格競争より取引の透明性と継続性を優先してきた結果、協力会社が新しい案件の情報を先に持ってきてくれるようになった、という構造も現場では起きている。どちらも「道徳だから正しい」という話ではなくて、「そうしないと仕組みが続かない」という実利の話として動いているわけで、渋沢の言う「相密著」はこの実態にいちばん近いとぼくは思います。そして最後にもう一点、渋沢自身の立場を見ておきたい。渋沢は「合本主義」で多くの事業を束ねた当事者で、自分も「利殖」をしてきた人間です。その渋沢が「利慾だけでは駄目だ」と言うとき、それは聖人の説教として読むより、長く事業を動かしてきた人間の観察として読んだ方が、リアリティがある。渋沢の言いたいことはおそらくもっと実務的で、「仁義を欠いた事業は、ある時点で必ず摩擦コストが上がり、自壊する」という観察だと、それ、本当ですか、と問い返したくなるくらいにぼくは確信に近いものを感じています。

closing

今夜の最後に、一個だけ問いを置いていきます。渋沢の「相密著」という言葉を、あなた自身の仕事や組織に当てはめてみてほしいんですが、道徳とか倫理とか呼ばれているものが、外側に貼ってあるラベルなのか、それとも仕組みの内側に埋め込まれているのか。その区別は、言葉だけで判断することはできなくて、発注書の支払い条件がどうなっているか、採用の基準がどう設計されているか、そういう仕組みのレベルを見ると、だいたい分かります。で、問いはこれです。あなたの周りで、長く続いている仕事のやり方には、仁義に相当する何かが意図的に埋め込まれているか、それとも結果的に長く続いているだけで、本人も理由を言語化できていないか。そこを確かめてみてください。次回も「論語と算盤」から別の章を読み解きます。今夜は「論語と算盤を読み解く」、聴いてもらってありがとうございました。

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