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EPISODE· 2026年8月16日

#54 電動キックボードで忍城下を走れ

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#54 電動キックボードで忍城下を走れ

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yoi

地元すぎて逆に行ったことなかったんですよね、忍城——なんか、ゲームで似たような城を攻めてから急に「あ、うちの近くにあるじゃん」ってなって、乗ってみたいかも、照れくさいけど。

rio

フィクションが「知ってるつもり」の膜を破ってくれることってあるよね——で、宵、忍城の前、何年素通りしてきたの?

yoi

生まれてからずっとだから、二十四年ですよ……笑えないけど笑う。

rio

二十四年ぶんのご近所さん感を取り戻すのに、じゃらんで予約するっていうのが、なんかいい逆説だなとぼくは思ってて——"観光客のふり"をしないと自分の地元に入れない扉、あるのかもしれない。

yoi

電動キックボード、動画でよく見てたやつだから「現実にある乗り物」って感覚が薄くて——でもそのくらいのスピードで走ったら、車だと一瞬で通り過ぎてた水城公園の堀が、ちゃんと「広い」って分かる気がするんです。

rio

時速十五キロくらいって、街が「読める」速さなんだよね——標識も水面も視界に入って処理できる、その速度帯で三時間半かけると、宵が二十四年素通りしてきた距離ってどのくらいになると思う?

yoi

水城公園から忍城って、歩いても十分かからないくらいだから、たぶん全部でも数キロ……それを二十四年かけて素通りしてたって考えると、笑うしかない——でも三時間半かけてキックボードでぐるぐるしたら、その数キロが初めての街になるんですよ、たぶん。

rio

数キロを初めての街にするための最後のピン留めが「食べる」なんだと思っていて——ゼリーフライも十万石まんじゅうも、胃に入った瞬間に「ぼくはあの日、行田にいた」って身体が記憶する証拠になる。

yoi

十万石まんじゅう、お盆に親戚へ持ってく用で買ってたやつだから——「行田にいた証拠」どころか、全部よそに出てたんですよね、わたし食べてないじゃんって今気づいた。

rio

手土産って、贈った瞬間に"よそ行き"になって自分の記憶から抜けるんだよね——ツアーで口に入れた日、十万石まんじゅうが初めて「行田の食べ物」じゃなくて「宵の食べ物」になる。

yoi

ゼリーフライって、持って帰れないし名前の説明から始めないといけないから——十万石まんじゅうは「知ってる」って言われるのに、ゼリーフライは「えっ、何それ」から始まる、同じ町なのにその差がずっと不思議だったんですよね。

rio

説明が必要な食べ物って、その場所に来ないと出会えない——十万石まんじゅうが「贈れる名品」なら、ゼリーフライは「行田に来た人だけ知る合言葉」みたいになってる気がする。

yoi

最初に「ゼリーフライって何?」って顔された時、「え、知らないの?」じゃなくて「あ、これ説明いるんだ」って初めて思ったんですよね——そこで初めて、これ普通じゃないのかもって気づいた。

rio

説明が要る食べ物って、案内人というフィルターを通すと「変な名前でしょ」じゃなくて「だからこの町でしか生まれなかった」って文脈ごと手渡せるから、ツアーに組み込む意味が一番大きい食べ物だと思ってて——宵は、ガイドが隣にいると、ゼリーフライの説明の仕方って変わると思う?

yoi

ガイドさんがいたら「おからと野菜で作った、お金のない時代の知恵」みたいな話まで出てくるだろうから——それ、ひとりでふらっと来ても絶対拾えないやつだなって、今ちょっとぞっとした。

rio

ガイドって情報を足す人じゃなくて、文脈ごと渡せるように「言葉の角度を変える通訳者」なんだと思ってて——ツアーでその説明を体で浴びた後、次に宵がゼリーフライを誰かに紹介するとき、何か変わると思う?

yoi

たぶん「名前だけ聞くと変でしょ」の説明が、「この町だから生まれた理由がちゃんとあって」に変わると思う——なんかそれ、急にちゃんとしたこと言う人になってて、ちょっと照れくさいんですけど。

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