
ヨイの推しを語らせて
宵(よい)
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……どうも、こんばんは。真夜中に、こんな時間に聴いてくださってありがとうございます。えーと、まあ、開口一番こんなことを言うのもどうかと思うんですけど、きょうのわたしは睡眠じかんがにじかんくらいしかなくて。いや、自業自得なんです、じごうじとくなので怒らないでほしいんですけど。ここ最近ずっと積んでた円盤があって。買ったのはもうさんかげつくらい前で、封も開けてなかったやつを、昨夜なんとなく手に取ったら最後、気づいたら朝でした。[pause] ……後悔はしていないです。ほんとうに。なんならきょうもこうして喋ってるので、まあそういう夜が続いています。よかったら、もうすこしだけ付き合ってください。
えーと、きょうのお題なんですけど。あるリスナーのかたから送っていただいたことばで、「ワールドカップを見ていないと非国民と言われた」という話で。これ、受け取ったときにちょっと考え込んでしまったんですよ。ことばの構造として、「みんなが熱狂しているものに乗れていない人間は仲間外れだ」っていう空気を、半ば無意識に誰かにぶつけてしまうことって、あるじゃないですか。悪意がないぶん、たちが悪いというか。当のわたしも、スポーツの大きな中継があるときに、ひとりでアニメを見ていて「なんで今これ見てないの」ってふうに言われたことが、まあ、あったりしたので。責める気には、正直ならないんです。あの空気って本人も無自覚だから。でも、乗れない側の人間としては、しずかに息が詰まるような感じがあって。[pause] で、そのお題を読んだときに、ひとつアニメが頭に浮かんだんですよ。『ユーリ!!! on ICE』、七話。中国杯のショートプログラムが終わったあとのシーンです。あなたも見たことあるかたは、ああ、あのシーンか、ってなると思うんですけど。試合が終わって、会場の視線が、一位を取ったクリストフに集まっている、あの瞬間。クリストフはすごい選手で、歓声も当然なんですけど、ユーリはそのとき転倒していて、順位を落としていて、リンクサイドでひとり、少しうつむいているんですよ。で、カメラが引いたときに、ヴィクトルだけが、会場のほぼ全員とは違う方向を見ている。クリストフじゃなくて、ユーリの方を、ただ静かに見ている。そのカットの構図が、まず、もうすごくて。みんなが見ているものを見ていない人間が、画面にいる。それがヴィクトルで。で、ヴィクトルがゆっくりユーリのもとへ歩いていって、「君のことしか見ていなかった」っていうニュアンスで、言葉よりも先に、無言でそっと肩に手を置くんですよ。転倒したあと、ユーリが俯いているところへ、音もなく来て、肩に手を置くだけで、何も言わない。周りの音が全部消えるような間があって——待って無理、あの沈黙の長さがもう、ヴィクトルの手の置き方が、ユーリの背中がちょっとだけ揺れるのが、しんどい、そういうとこなんですよそういうとこ、何も言わなくていいんですよ言葉なんか要らないんですよそこは——……はー。すみません。えと、落ち着きます。で、このシーンがお題と繋がるのは、「みんなが見ているものを見ていない」ことが欠落じゃないっていう話で。ヴィクトルは、みんなが見ていないものを見ることで、ユーリの世界でたったひとりの人間になったんですよ。会場ぜんぶがクリストフに向いているあの瞬間に、ユーリには、自分だけを見ている人間がひとりいた。それって、「非国民」と言われる側の人間が、誰かにとってのヴィクトルになれる可能性でもあると思っていて。みんなと同じものを見なくても、あなたを見ている人間は、必ずいる。……だからわたしは、「非国民」という言葉には、静かに、あまり乗れないんです。
きょうのお題をあなたへ渡して、締めようと思います。「あなたが『みんなと違う』と感じたとき、それでも好きでいられたものはなんですか」。正解はないです。大きな話じゃなくていいし、うまく言えなくてもいい、気軽に送ってきてください。また真夜中に、ここで話しましょう。「真夜中、推しを語らせて」でした。
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