
論語と算盤を読み解く
RIO
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今日はちょっと蒸し暑くて、スタジオに入る前にコンビニで冷たいお茶を買ったんですけど、レジで「温めますか」って聞かれそうになって、あ、これ季節の変わり目あるあるだなと思って、まあそれだけの話なんですけどね。[pause] で、今日扱うのは渋沢栄一の『論語と算盤』、「実業と士道」という章です。渋沢がこれを書いたのは、欧州で大規模な戦争が起きていた時期、第一次世界大戦前後の文脈の中で、ということをまず頭に置いておいてほしい。文明が進んでいるはずの国々が、なぜこれほど激しく殺し合うのか、そこから渋沢は考え始めている。で、そこで渋沢が使った言葉が、「文明人の貪戻」。今日はこれを一緒に読み解いていきます。
まず渋沢の観察の出発点を正確に置かせてください。渋沢が言う「文明の貪戻」って何かというと、簡単に言うと、「文明が発展すれば人間の欲望は穏やかになるはずだ」という素朴な期待が、現実の前で完全に崩れた、その崩れ方のことです。野蛮だから戦争が激しくなったんじゃなくて、文明の力、つまり工業力とか、組織力とか、通信網とか、そういう力が欲望と野心に乗っかったから、戦争がより大規模に、より激烈になった、という構造を渋沢は見ている。それ、本当ですか、と渋沢自身が時代に問いかけているような章なんですよね。[pause] で、渋沢はその文脈の中でドイツに言及する。ドイツ皇帝が産業振興と海外進出を官民一致でやり遂げた、という話が出てくる。ぼくがここで大事だと思うのは、渋沢はこれを「ドイツ、すごい、見習え」という称賛として書いているわけじゃないということで、どう機能したかを観察している、分析として参照している、という読み方をするほうが正確だと思う。で、その観察の矛先は日本に向く。商工業の経営が個別散発的で、統一的な方向性を持っていない、という批判です。つまりドイツを褒めているというより、日本の問題を照らし出すための鏡として使っている。 渋沢がもう一つ具体的に言っているのが、中国への後れの話で、地理的にも人種的にも日本は中国と近い関係にある、その近さと関係性という便宜を持っていながら、欧米列強に商工業展開で後れをとっている、という指摘です。これ、抽象的な道徳論じゃないんですよ。具体的な経済的機会の損失として語っている。で、渋沢は士道、つまり誠実さとか志とか、そういうものと実業は分けられないと考えているから、「なぜ動かないか」というのが純粋に問題になる。誠実に志を持って動いている人間が、なぜこの機会を逃しているのか、という問いです。 [pause] ここからが今日ぼくが一番言いたいところで、「文明人の貪戻」という概念が現代でどう骨抜きにされているか、という話です。よくある誤読のパターンは、「貪戻」を「欲張りな個人の問題」として矮小化してしまうことで、「あの人は欲が深い」「あの経営者は貪欲すぎる」という個人の品性の話として読んでしまう。でも渋沢が見ていたのはそこじゃなくて、文明という集団的な力が欲望を増幅させる構造の話です。個人じゃなくて、組織、国家、文明そのものが持つ欲望の動き方、その構造を問題にしている。 これ、現代の状況に置き換えると、あなたもこういう場面を見たことがあると思うんですけど、技術力もブランド力も市場へのアクセスも持っている国内企業が、組織内の調整コストと縦割りの慣性で海外展開できないでいる、という状況がある。あれって個人個人が欲張りすぎているわけじゃないですよね。むしろ担当者レベルでは誠実に動いている。でも集団として方向が揃わない。これが渋沢の言う「個別散発的」そのものじゃないかと、ぼくは思う。「貪戻」を個人の倫理問題として読んでしまうと、この集団・社会レベルの構造が見えなくなる。 で、最後に渋沢の青年への奮起要請の話をしておきたいんですが、表面的には「若者よ頑張れ」に聞こえる。でもぼくは文脈を踏まえると、「個別散発的な動きを超えて、統一的な方向感を持て」という、組織論・戦略論に近い話をしていると読みます。渋沢自身が合本主義、つまり資本と知恵を集めて束ねることで動いてきた人間なので、「個人が頑張る」より「どう束ねるか」に関心の重心がある。「頑張れ」という言葉の下に、「なぜ今まで束ねられていないのか」という問いが隠れていると思う。
渋沢が「文明人の貪戻」に驚かなかったのは、ひょっとすると、人間の欲望を否定していなかったからじゃないかと、ぼくは思っている。欲望はある、それを前提に、どう束ねるか、どう向けるかを考えていた人間なんじゃないか、という見立てです。 で、あなたに問いを一つ置いて今日は終わりにします。あなたの組織や業界で、「個別散発的な動き」が束ならないとき、それは個人の志の問題なのか、構造の問題なのか、どちらだと思いますか。 次回も『実業と士道』の章から、別の角度を取り上げます。「論語と算盤を読み解く」でした。
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