
論語と算盤を読み解く
RIO
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えーと、今日ね、収録の前にちょっとメモを見返してたんですけど、ぼくが最初にこの本を読んだのってもう何年前だろうって思って、まあ正直そんなに大事に読んでなかったんですよね、最初は。タイトルだけ知ってる本、みたいな感じで。で、改めて読み直してみると、あ、ここそういう意味だったんだっていうのが結構ある。今日取り上げるのもそういう一節で、『成敗と運命』という章から「細心にして大胆なれ」という一節を読み解いていきます。この言葉、あなたも一度は聞いたことがあると思うんですよ。なんかわかった気になりやすい言葉で、それだけにちょっと丁寧に読む価値があると思ってて。背景だけひとことだけ置いておくと、渋沢がこれを書いたのは後進国の日本が先進国と競争していかなければならない、という時代文脈の中でのことで、そこが読み解くときの軸になってきます。
まず原文の構造から確認したいんですけど、渋沢がここで言っていることって「大胆か細心か、どっちが大事ですか」という二択の話じゃないんですよね。「潑溂たる進取の気力」と「細心周到なる努力」の両方が同時に成立して初めて大事業が成る、という構造になっている。で、ここで注目したいのが、渋沢が明示的に「細事に没頭して気力を消耗するな」と言っている点で、つまり細心さは使いどころを選べ、という前提がはじめから入ってるんですよ。これ、読み飛ばされやすいんですけど、ぼくはここが一番大事だと思ってて。 で、渋沢がこれを書いた文脈なんですけど、起点にある観察が面白くて、「社会が進歩して秩序が整うほど、人は保守的になる」と言ってるんですよね。秩序が生まれると人は守りに入る、という話で、これって組織の話としてそのまま読めるんですよ。後進国が先進国と競争するために進取の気力が必要だ、という当時の文脈を、たとえばスタートアップと大企業の競争とか、新規事業と既存事業の社内力学として読み替えると、構造がほぼそのまま当てはまる。 [pause] で、現代でこの訓話がどう使われるかというと、「細心と大胆のバランスが大事」という形容詞の並列として消費されることが多いと思うんですよ。まあ間違いとは言いにくいんですけど、それだと渋沢が原文に入れた優先順位の設計が完全に落ちてしまう。具体的に言うと、たとえば新規事業の検討フェーズで、市場調査の精度とか資料の体裁とか社内承認フローの整備にものすごく力を注いで、で、肝心の「この市場に参入するかどうか」という判断がずっと先送りにされ続けるケースがあるじゃないですか。あなたも職場でそういう場面、見たことないですか。あれって細心さを使うべき場所を間違えて、細心さが大胆さを食い潰している状態で、渋沢が言う「細事に没頭して気力を消耗する」はまさにこれを指してると思うんですよね。だから「バランスを取れ」という話じゃなくて、「細心さの消費先を能動的に管理しろ」という指示として読むべきだというのが、ぼくの見立てです。 もう一段めくると、「進取の気力」を単純に「新しいことへの意欲」と読むのはちょっと表層で、渋沢の文脈では「現状の秩序や慣習への過度な依存から抜け出す力」という意味合いが強い。で、「秩序が整うほど保守化する」という観察って、成熟した大きな組織にそのまま当てはまるんですよね。制度が整備されれば整備されるほど、その制度を守ること自体が目的になっていくパターン、それ、本当ですか、と問いたくなる場面を組織の現場でぼくは何度か見てきた。渋沢はそこに細心さじゃなくて大胆さを当てよ、と言っているわけで、それはつまり秩序の外に出る動きに対して大胆であれ、ということだと思う。
じゃあ最後にひとつだけ問いを置いて終わりにします。あなたが今「細心さ」を使っているその場所は、本当に大事業に繋がるところですか。それとも、大胆な判断を先送りするための理由に、細心さがなっていませんか。次回も『成敗と運命』章から、別の角度で読み解いていく予定です。番組「論語と算盤を読み解く」でした。
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