
論語と算盤を読み解く
RIO
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はい、論語と算盤を読み解く、始まります。えーと、今日ね、収録の前にちょっとだけ近所を歩いてきたんですけど、まあ用事があったわけじゃなくて、ただ歩きたくて歩いた、みたいな感じで。で、歩きながら考えてたのが今日の話題とも関係するんですが、「自分のために動いているのか、それとも何か別のもののために動いているのか」って、自分でわかってる人ってどのくらいいるんだろう、って。まあそれは後にして。[pause] 今日取り上げるのは、渋沢栄一の『論語と算盤』の中の「理想と迷信」という章です。ここで渋沢が扱っているのは、人の生き方をどう「向ける」か、という問いで、その入口として、渋沢は人生観に二種類あると言っている。どちらを向いて生きているかで、その人間も、その人間が属する社会も、変わると見ていた。ただ、この分類、聞いた瞬間にわかった気になれる話なんですよね。そのわかった気、というのが、今日いちばんの落とし穴かもしれない、ということだけ最初に言っておきます。
まず渋沢の分類を、表面だけでなく正確に押さえておきたいんですが、「客観的人生観」というのは、君や父、あるいは社会を主として、自分を従として生きる立場のことです。で、「主観的人生観」は、自己の利益や欲求を中心に据える立場で、渋沢はこちらを「粗野・鄙陋」という言葉で表現している。鄙陋というのは、まあ品がなく卑しい、という意味ですね。個人が主観的人生観を押し通すと、国家社会が衰退すると、彼は言っている。孔子の言葉として「己れ立たんと欲して先づ人を立て」を引いていて、他者や社会の発展を先にすることで初めて自分も育つ、という「順序」を話の核心に置いています。[pause] ここで表面的な読み方を確認すると、「利己主義より利他主義が良い」という道徳の話に見える、で、現代でもそういう文脈でこの本が引用されることが多い。ただ、それ、本当ですか。ぼくの見立てでは、渋沢が語っているのは「利他か利己か」の美徳論じゃなくて、「処世の順序」という設計の話だと思っています。「先づ人を立て」というのは、他者が育たなければ、自分が育つ環境そのものが消える、という因果の話として読んだほうが、ずっと切れ味がある。社会や組織が機能するための構造的な前提条件として語られている、とぼくは見ています。で、これが現代でどう骨抜きになるかというと、たとえば「社員の成長を支援する」とか「顧客ファースト」と掲げながら、実際には評価指標と報酬の設計がすべて短期の自社利益に紐づいている組織の話があって、スローガンだけが客観的人生観で、設計思想は主観的人生観のまま動いている。この「看板と設計の乖離」こそ、渋沢が言った「粗野・鄙陋」の現代版じゃないか、とぼくは思う。もう一つ、よく聞く言い回しがあって、「まず自分を満たさないと人には与えられない」というやつです。これ自体は一理あると思うんですよね。ただ渋沢が言っている「順序」とはちょっと別の話で、渋沢は「自己充足を前提とした利他」を語っているんじゃなくて、他者を立てることが自己成長の回路を生む、という因果の向きで語っている。これはぼくが読んでそう感じた、ということなので、あなた自身の読み方と照らし合わせてみてほしいんですが。[pause] 実社会の話をすると、たとえば部下の育成に投資する管理職と、自分の成果だけを追う管理職とを比べると、後者は短期では数字が出るように見える。でも、チームに再現性が生まれないので、その人が抜けた途端に組織が止まる。ぼくの見立てですが、この構造は業種を問わず繰り返し起きているパターンで、再現性があります。産業の単位で見ても、取引先や人材を育てることに投資した業界と、コスト削減の対象として扱った業界では、十年後の裾野の広さが違う。数字として出せるものがぼくの手元にあるわけじゃないですが、サプライチェーンの厚みとして体感できる話だとぼくは思っていて、あなたも何か思い当たる業界があるんじゃないかと思います。渋沢自身も、合本主義、つまり多くの企業や人を束ねる仕組みを動かした人間で、「自分が一番になる」より「仕組みそのものを育てる」側に立った。それが彼の言う客観的人生観の実装だったと見ることができると、ぼくは思っています。
今日の見立てをまとめると、渋沢の「処世の順序」は、道徳の話として読むより、設計の話として読んだほうが切れ味がある、ということです。「他者を先に立てる」というのは美しい心がけじゃなくて、自分が育つための環境をどう構造的に作るか、という話として読める。で、あなたに一つ問いを置いておきたいんですが、あなたが「他者を立てる」と言うとき、それはスローガンとして口から出ているのか、それとも自分の日々の行動や、報酬の設計や、時間の使い方に本当に織り込まれているのか、どちらだろう。次回も『論語と算盤』から一節を取り上げます。論語と算盤を読み解く、でした。
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