論語と算盤を読み解く
論語と算盤を読み解く
EPISODE· 2026年8月27日

論語と算盤を読み解く

RIO

論語と算盤を読み解く

TAP TO PLAY

このエピソードをシェア

SHARE
SCRIPT
opening

えーと、今日はちょっと蒸し暑くて、スタジオ入る前にコンビニで冷たいお茶買ったんですけど、レジで「温めますか」って聞かれて、あ、これ聞いてみたかったやつだ、と思って。いや、冗談じゃなくてほんとに言われたんですよ。で、まあそれはいいとして。[pause] 今日の番組は「論語と算盤を読み解く」、やっていきます。今日取り上げるのは渋沢栄一の『論語と算盤』の中の『理想と迷信』という章の一節で、タイトルからして面白くて、「理想」と「迷信」って対比になってるんですね。渋沢がわざわざ対比で章を立てているということは、何かを区別しようとしていた、ということで、今日はその区別が何なのかを追いかけていく回です。今日のキーワードを先に置いておくと、「熱誠」「趣味」「木偶人」の三つ。意味はこれから話します。

reading_surface

まず原文を素直に追うと、渋沢がここで言っている「趣味」は、休日に釣りに行くとか映画を見るとか、そういう娯楽の話じゃないんですね。仕事に対して自分なりの問いを立てて、なぜこうなのか、もっとこうできないかって工夫する動機のこと、そういう意味で使っている。で、それがある人間とない人間を、渋沢はかなり極端に対比させていて、命令をこなすだけの存在を「肉塊」と呼んで、対して自ら問いを立てて動く人間を「心で世に立つ者」と呼んでいる。で、ここで渋沢が言っていることで面白いのが、老衰してなお心で世に立てる、という表現なんですね。これ、ぼくが読んで最初に思ったのは、じゃあ体が動かなくなっても、というか、体力や年齢の話じゃなくて、内側に何があるかの話をしているんだ、ということで、それ、本当ですか、と言いたくなるくらい強い主張だなと。[pause] そこに渋沢は孔子の言葉を引いてくる。「之を知る者は之を好む者に如かず」——知っているだけの人間より、好きでいる人間の方が上だ、という孔子の言葉を軸に、熱誠という概念につなげていく、という構造になっています。

reading_reinterpretation

で、ここからもう一段めくってみると、現代でこの話がどう受け取られているかが気になってくる。「仕事に情熱を持てる人はいいよね」という読まれ方、あなたも見たことないですか。これ、個人の資質の話として処理されちゃっているパターンで、生まれ持ったものとか、向いている向いていないの話にされてしまう。でも、ぼくの読みだと、渋沢が言っているのは情熱の有無を問うているんじゃなくて、職掌そのものに向き合い続ける中で熱誠は後天的に育てられる、という主張に近い。渋沢が「趣味」を、工夫する姿勢として定義しているのがその証拠で、工夫する姿勢って先天的なものじゃなくて、積み重ねの中で出てくるものですよね。となると順序が逆で、情熱がある人が強いんじゃなくて、向き合い続けることで熱誠が形成される、という話として読める。[pause] これは現代の採用や人材育成の現場で実際にズレが起きているところで、「情熱のある人材がほしい」という入り口設計って、渋沢の論理と逆向きになっていないか、とぼくは見ていて思う。入り口で情熱を選別しようとしているわけだから、仕事の中で熱誠を育てるという発想が最初から抜け落ちている。見立てとして言えば、「趣味を持てる環境を設計する」という問いが先に来るべきで、「情熱がある人を採る」という問いは後でいい、ということになる。

reading_cases

具体の話をすると、たとえばベテランの職人とかエンジニアとか、あるいは営業でもいいんですけど、手順は完璧にこなせるし、ルーティンなら誰より速い、でも想定外のトラブルが来た瞬間に思考が止まる、という状態の人って、あなたの周りにも一人くらいいませんか。渋沢の言葉を借りると、これが「木偶人」の現代版で、動いているけど心が入っていない、という状態。これは批判しているんじゃなくて、そういう構造になりやすい仕事の設計や組織の評価制度があると、ぼくは思っていて、成果指標が「こなした件数」「エラーゼロ」「納期遵守」だけになっていると、それをこなす動機しか育たない。渋沢の言う「肉塊」を量産する構造に、意図せずなっている可能性がある。逆の話もあって、同じ職種でも、五年、十年と続けた後に急に「この仕事の面白さが見えてきた」と言い出す人がいる。ぼくが関わってきた現場でも実際にそういうケースはあって、最初から情熱があったわけじゃなくて、向き合い続けた結果として熱誠が出てきた、という順序だった。これは渋沢の「趣味は育てられる」という読みを、現場レベルで支持していると思う。

closing

今日の最後に、あなたに一個だけ問いを置かせてください。今あなたがやっている仕事に、渋沢の言う意味での「趣味」——問いを立てて工夫する動機——を持てているとしたら、それはいつ生まれましたか。最初からありましたか、それとも途中から出てきましたか。もし「まだ持てていない」という感覚があるとしたら、それは自分の問題として引き取るべきことか、それとも仕事の設計や関わり方の問題として外に出してもいいことか、どちらだと思いますか。次回は、この『理想と迷信』章の別の角度から入るか、次の章へ進むか、まだ決めてないんですけど、まあ渋沢の話はまだ続きます。今日の番組は「論語と算盤を読み解く」でした。また。

← PREV

エピソード

ARCHIVE

論語と算盤を読み解く の他のエピソード