
論語と算盤を読み解く
RIO
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今日ね、スタジオに来る前にコンビニで缶コーヒーを買ったんですけど、レジで「ポイントカードはお持ちですか」って聞かれて、ぼくいつも「持ってないです」って言うんですよ。持ってるんですけど。財布から出すのが面倒で毎回そう答えてるっていう、これ合理的なのかどうか自分でもよくわからないんですよね。まあそれはどうでもよくて。今日は『論語と算盤』の「処世と信条」という章を読んでいきます。この章で渋沢栄一が立てているのが「士魂商才」という言葉で、でねこの言葉、元ネタがあるんです。「和魂漢才」という、もう少し古い言葉が。その話を今日はするんですけど、まあ解釈は後で、順番にやっていきましょう。
まず言葉の構造から確認します。「和魂漢才」、これは菅原道真の言葉として知られていて、日本の精神を軸に置きながら、中国の知識や技術は道具として使う、という構造です。精神は自分たちのもの、技術は借りてくる、という切り分けですよね。渋沢はこの型を借りて、「士魂」を武士的な精神、「商才」を商業的な実行力として組み替えた。ただ、ここが重要なんですけど、渋沢の言いたい核心は能力論じゃないんです。「商才は道徳に基づかなければならない」、そこが出発点なんですよ。 で、原文が実際に何を言っているかというと、「士魂だけでは世に立てない、商才だけでは道を誤る」と、両方を要求しているんですね。そのどちらの根本にも論語を置いていて、道徳の面でも、実利の面でも、論語が使えると論じている。具体例として渋沢が挙げているのが徳川家康の「神君遺訓」で、この内容の多くが論語と符合するという話を原文でしています。さらに、孔子の教えは数千年経っても西洋の新しい学説と本質的に変わらない、とも書いている。これ、原文がそう言っている、という事実として受け取ってください。 [pause] で、ここから少し角度を変えます。現代で「士魂商才」という言葉が使われるとき、どんな場面が多いか。ぼくの見る限り、「志ある起業家」の自己紹介として機能していることが多い。ピッチとか、SNSのプロフィールとか、あるいはインタビューで「どんな経営者を目指していますか」って聞かれたときの答えとして。それ、本当ですか、と言いたくなるんですよね。なぜかというと、その使われ方って、「士魂」を看板に掲げながら実装しているのは「商才」だけ、という状態になっていることが多くて、それはまさに渋沢が最も警戒したパターンそのものだから。渋沢の言う「士魂」は精神論じゃないんです。利益が誰に帰属するかを問い続ける、規律の問題だった。この会社で生まれた利益は、社会に戻るか、株主だけに集まるか、それを問い続けることが「士魂」だと、ぼくは読んでいます。そこが薄れて、「志のある俺」という自己イメージの装飾になっているとしたら、渋沢はたぶん「それは違う」と言うんじゃないか。 で、渋沢自身はどうだったかという話をします。渋沢は約五百社の設立に関わっていますけど、経営のトップには原則として座らなかった。合本主義、要するに出資者を集めて会社を作る仕組みを支える二番手の位置を選んだ。これは「士魂商才」の実践と見ることができる、とぼくは思います。一方で同時に、トップでなければ個人の道徳を問われにくい、という構造でもあるんですよね。そこは切り離して見るべきだと思っていて。それに渋沢の私生活には、多くの妾や養子がいたことが記録として残っています。道徳を説く人間の実生活との矛盾として、これは現実として存在した。ぼくはこれを「だから渋沢は偽物だった」とは言わない。「理想と実際の間を生きながら、それでも言葉を更新し続けた人」として見る方が正確だと思っているので。矛盾は欠落じゃなくて、その人間の実際の大きさだと。 [pause] 最後に構造として気になる点を一つ。渋沢は「論語はすべての答えである」という立て方をしている場面があるんですけど、これ、論語を道具として使いながら、同時に論語を根拠としても使うという循環になっているんです。データで見ると、逆なんですよね、という話ではなくて、論証の構造として循環している、ということです。渋沢がこれに無自覚だったとぼくは思わない。ただ、その点は問いとして残しておく価値があると思っていて、今日は答えを出しません。
今日の話をまとめると、「士魂商才」という言葉は、掲げる人間が「士魂」に何を入れているかで、まったく別の意味を持つ、ということです。渋沢が言っていたのは、利益の帰属を問い続けることで、それを「志」と呼んでいた。あなたが今「志」と呼んでいるものは、誰かの利益の帰属を問う規律になっていますか、それとも自分を飾る言葉になっていますか。次回も「処世と信条」の章から、別の訓話を読んでいきます。この番組は「論語と算盤を読み解く」です。またきてください。
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