論語と算盤を読み解く
論語と算盤を読み解く
EPISODE· 2026年7月16日

論語と算盤を読み解く

RIO

論語と算盤を読み解く

TAP TO PLAY

このエピソードをシェア

SHARE
SCRIPT
opening

えーと、今日ね、実は朝に渋沢栄一の肖像を見てたんですよ。一万円札じゃなくて、写真のほう。で、なんというか、この人、すごく「分かってる顔」してるんですよね。自分が矛盾してることを分かってる、みたいな顔。まあ、ぼくの主観なんですけど。[pause] 今日扱うのは『論語と算盤』の中の「処世と信条」という章で、渋沢がここで言い切ってるんです。「論語と算盤は甚だ遠くして甚だ近いものである」って。遠くて、近い。この「遠い」と「近い」の両方を、渋沢は意図して書いてる。どちらかが間違いで、どちらかが正しい、じゃない。両方が同時に本当だ、と言ってる。それがどういう構造の話なのか、今日はそこをひもといていきます。

reading

まず原文の核心から整理するんですけど、渋沢の主張って「算盤は論語によって成り立つ」というだけじゃなくて、逆方向も同時に言ってるんですね。「論語も算盤を通してこそ本当の富になる」、つまり道徳が経済を支えるだけじゃなくて、経済の実践を通してはじめて道徳が本物になる、という双方向の構造です。で、これが大事なのは、渋沢が「空理・虚栄に走る国民は真理の発達をしない」という言葉も書いてるんですよ。あなたもこれ読んだとき、道徳の説教っぽく聞こえるかもしれないけど、ぼくはちがう読み方をしていて、実用につながらない思想への批判として読んでます。きれいなことを言うだけで、経済の現場で機能しない道徳は、本物じゃない、という話です。[pause] で、ここで面白い逸話があって、渋沢の70歳の誕生日に、友人が贈り物をしたんです。論語の本と算盤、それからシルクハットと刀の絵。この組み合わせって、要するに「あなたは武士でもあり商人でもある」というアイロニーを、贈り物の形で送ったわけですよね。で、渋沢本人がこれを面白がってた、という記録が残ってる。ぼくがここで気になるのは、自分の生き方の矛盾を、笑って受け取れる人物だったという点で、「ぼくは矛盾していない」と言い張る人間じゃなかった可能性が高い、ということです。矛盾を認識した上で、それでも動き続けてた人、という読み筋のほうがしっくりくる。現代での使われ方に話を移すと、「渋沢も言っていた、道徳と経済は両立する」という引用の仕方って、あなたも見たことあると思うんですよ。企業のCSR資料とか、経営者の講演とか。でもね、渋沢の原文を読むと、「両立する」という楽観的な話じゃない。「遠い」という前提が先に来てるんです。「甚だ遠くして」が最初に来る。簡単にはつながらないものを、意志と設計を持って接続しようとする話で、「道徳と利益は自然に一致する」と読むと、この言葉の骨が完全に抜ける。正確には「一致させようとする意志と設計が必要だ」という主張だとぼくは読んでます。データで見ると、逆なんですよね、という言い方が合うかどうか分からないけど、要するに「両立するから大丈夫」じゃなくて「両立しにくいから、意図的につなげる」という話です。最後に渋沢自身の生き方と照合すると、約500社の設立に関わりながら、自分がその会社の「1番」に座ることを基本的に選ばなかった。合本主義、つまり資本を合わせて社会全体で動かすという考え方で、支える2番手の立ち回りを続けた。これを道徳的な美談として語ることもできるんですが、ぼくはそこより「構造として機能する役割の選択」として見るほうが面白いと思っていて、「1番じゃなくていい」じゃなくて「1番に座らないことで、資本が一人に集中しない設計になる」という話です。一方で、渋沢は多くの妾を持ち、養子もいて、私生活はかなり当時の儒教的な規範とはズレた部分もある。道徳を語りながら、自分の私生活がその道徳と一致していたかというと、そうでもない。[pause] それでもぼくは、渋沢が「論語と算盤は近い」と言い切れたのは、自分の矛盾を直視しながらも原則を手放さなかったからじゃないか、という読み方をしてる。完璧に一致させた人じゃなくて、ギャップを抱えながら原則を運用し続けた人として見るほうが、実態に近い気がする。断定はしないけど。

closing

ひとつ問いを置いていくと、「道徳と経済は両立する」という言葉を、あなたはどちらの向きで使ってるか、ということです。道徳から経済へ向かう使い方なのか、それとも経済の判断をすでにしていて、それを正当化するために道徳を後から乗せてるのか。渋沢自身が矛盾を抱えながらも原則を持ち続けたとして、その原則はどこで、どういう場面で機能していたのか、これはまだ答えを出していない。次回以降も、別の章から掘り下げていきます。それ、本当ですか、と問い直す習慣だけは持っておきたいんですよね。番組「論語と算盤を読み解く」でした。

ARCHIVE

論語と算盤を読み解く の他のエピソード