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論語と算盤を読み解く
EPISODE· 2026年10月8日

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こんにちは、論語と算盤を読み解く、です。えーと、最近ぼく、養育院って言葉を調べていたんですけど、まあ今で言う福祉施設ですよね、で、明治期の養育院の記録を読んでいたら、渋沢栄一が現場に入って直接話をしていた、という記述が何度か出てきて、なんか経営者が来て訓話をする、というのともちょっと違う、なんていうか、場の重さみたいなものが気になってしまって。今日扱うのは『成敗と運命』の章で、ちょうどその養育院での訓話として語られた言葉が含まれている章です。「忠恕」という言葉がこの章には出てきますが、それが何を意味するのか、というのは読み解きのパートでじっくり見ます。まずは原文の構造から入りましょう。

reading

渋沢がこの章で語っていることは、大きく三つの層に分かれています。まず最初の層は「趣味・感興」の話で、事業というのは没趣味に従事していると倦怠と破滅を招く、精神が活発になってはじめて公益につながる、という話。次が「運命」の話で、人の運命には一部あらかじめ決まった部分があるかもしれないが、努力しなければその運命を「開拓」することすらできない、と渋沢は言っています。「開拓」という動詞を使っているのがぼくには気になっていて、運命は与えられるものではなく、手で耕すものだ、という意識がにじんでいる。で、三つ目の層がいよいよ「忠恕」で、養育院の職員に向けて、憐愍の情を欠いてはならない、と語っている。[pause] 一見バラバラに見えますよね、あなたも最初そう感じないですか。趣味の話と、運命の話と、思いやりの話が、なぜ一つの訓話に並んでいるのか。でもぼくはこれ、渋沢が意図してひとつの流れとして語っている、と思っていて、その順序が「内面の動機」→「自分への態度」→「他者への態度」という三段になっているんですよね。仕事に感興を持つことが起点で、そこから自分の運命と向き合う姿勢が生まれて、その延長に他者への憐愍がある、という構造。別々の徳目を列挙しているんじゃなくて、同じひとつの精神の、向かう方向が変わっているだけだ、というのがぼくの読みです。さて、「忠恕」の話に入りますが、現代でこの言葉がどう使われているか、あなたも一度は見たことがあると思うんですよ。「思いやりが大事」「相手の立場に立つ」、経営の文脈なら「従業員に寄り添う経営を」、顧客対応なら「顧客への共感を大切に」。どこにでもある言葉になっていますよね。でも渋沢がこの言葉を使った場所を思い出してほしくて、養育院の現場職員への訓話ですよ。路上で保護された人、身寄りのない老人、当時の社会から最も遠ざけられた人たちと、毎日顔を合わせて働いている人たちへの話として、忠恕が登場している。渋沢が言っているのは「憐愍の情を欠いてはならない」であって、「優しくしましょう」ではないんですよね。憐愍というのは、相手の状況に実際に感じ動かされることで、それはマニュアルに書ける感情じゃないし、KPIで測れる行動でもない。[pause] で、ここでぼくが気になるのは、現代の組織の話です。それ、本当ですか、と問いたいのはこの点で、忠恕とか共感とか寄り添いを掲げている組織が、実際に職員や担当者が「感じるための余白」を持てる構造になっているか、ということ。ぼくが見てきた現場でいうと、たとえば相談窓口の担当者が一日に処理する件数が決まっていて、次の案件に移るまでの時間が管理されている、という状況で、相手の話に本当に引きずられるのは、むしろ「できない職員」の振る舞いになってしまうことがある。これは担当者が冷たいからじゃなくて、感じなくても回るシステムを、組織が自分で作った結果ですよね。渋沢が言う「没趣味で従事する」状態と、これは地続きだとぼくは思っていて、趣味も感興も持てない環境に人を置いておいて、忠恕を求めるのは、かなり矛盾した要求になっている。仕事への感興を失った人間が、目の前の相手に対して憐愍を持てるか——渋沢はその問いを、章全体の構造として埋め込んでいる、というのがぼくの見立てです。

closing

「忠恕」を「持っているか・いないか」という個人の徳の問題として読むのは、たぶん渋沢の言いたいことの半分しか取れていない、とぼくは思っていて、もう半分は、その言葉をどういう場で誰に向けて語ったか、というところにあると思っています。養育院の職員に向けて語られた、という事実そのものが、すでにひとつの問いになっている。ということで、あなたに問いを置いて今日は終わりにしますが、あなたが今いる場所は、感じながら動ける構造になっていますか。それとも、感じる前に処理が終わる構造になっていますか。次回も論語と算盤から一章を読み解きます。論語と算盤を読み解く、でした。

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