← 論語と算盤を読み解く
論語と算盤を読み解く
EPISODE· 2026年10月14日

論語と算盤を読み解く

RIO

論語と算盤を読み解く

TAP TO PLAY

このエピソードをシェア

SHARE
SCRIPT
opening

論語と算盤を読み解く、始めます。 えーと、今日ね、スタジオに来る前にコーヒーを買ったんですよ。で、レジで会計して、財布にちょうど小銭がなくて、千円札で出したら九十円のお釣りが来て——それがなんかすごく「ちゃんとしてる」感じがして、ちょっと気分よく入ってきたんですけど、そういうの、ありますよね。別に大した話でもないのに、小さい結果が気持ちいい、っていう。[pause] まあ、それが今日の話に繋がってくるんですが。 今日扱うのは、『論語と算盤』の「成敗と運命」という章です。渋沢栄一が「成功も失敗も、所詮は糟粕である」と言っている、その一節を読んでいきます。 糟粕、というのは、もともと酒を絞った後に残るかすのことで、転じて「本質ではない残りもの」という意味になる言葉です。渋沢が「成功と失敗はかすだ」と言ったとき、それは何を指していたのか——今日はそこを、ゆっくり読んでみます。

reading

まず、渋沢が何を言っているかを整理するところから始めます。 渋沢の主張の核心は、「成功と失敗は結果であって、人間の本質的な務め——人たるの務——ではない」ということです。世間は成否だけで人を評価するし、本人も成否だけで自分を測ろうとする、そこに渋沢は違和感を持っていた。ぼくはこれを読んで、「そうか、評価の対象がずれているという話なんだ」と思ったんですよね。何を見るべきかの問いであって、結果を軽んじろという話じゃない。 で、この章に家康と秀吉の例が出てきます。あれ、単なる偉人賞賛じゃないんですよ。渋沢が言いたいのは「運命論だけでは動けない」という話で、智恵と努力が組み合わさって初めて道が開けるという、三つの要素の話として引いている。つまり「あの二人もすごい」じゃなくて、「与えられた条件の中で打ち手を考え続けた」という文脈での引用です。 [pause] で、ここからが今回いちばん掘り下げたいところなんですが——現代でのこの言葉の使われ方を見ると、「成敗は糟粕」が「結果より過程が大事」という一般的な精神論に変換されてしまっているケースが多い、とぼくは思っています。でも、それは骨抜きにされた読み方です。 渋沢が言っているのは「気持ちよく取り組めればよい」ではなくて、「人たるの務めを果たせ」という話で、その務めというのは、道理・義理・誠実さという客観的な行動規範のことを指している。自分が頑張ったという主観的な充実感じゃないんですよ。そこを混同してしまうと、失敗した後に「プロセスを大事にしたから」と言い訳として使えてしまう言葉になる。それは渋沢の文脈とはまったく別の話です。 あなたも、職場とかで「プロセスは良かった」という総括を聞いたことがあると思うんですよね。でも、そのとき「道理に沿った判断をしていたか」という検証が同時にされていたかどうか、それはまた別の問いなんです。 たとえば、新規事業の撤退判断をめぐる組織の動きがあります。市場にまったく合わなかった事業なのに、担当者個人の「やりきった感」や「挑戦した物語」が称賛されて、撤退の意思決定プロセス——そもそもその判断は道理に沿っていたか——が誰にも検証されないまま次に移っていくケースがある。逆に、たまたま市場が拡大して事業が成功した担当者が「あの人は本物だ」と評価される。渋沢の言い方を借りれば、前者も後者も糟粕を見て判断しているわけです。務めを果たしたかどうかは、そのどちらとも切り離された別の問いのはずだ、と。 で、家康と秀吉の三項構造に戻ると——運命、智恵、努力という三つのうち、どこに意識が向いているか、という話は今でも有効だとぼくは思っています。「環境が悪かった」だけで終わるのは運命の項しか見ていない、ということで、そこに智恵と努力の二項を加えて動いていたか、が渋沢の問いの軸です。ただし繰り返しになりますが、渋沢はそこで「成功した者が偉い」とは言っていない。三項を揃えて動いたかどうかが問いであって、結果はあくまで後からついてくる糟粕に過ぎない。それがこの章の構造です。

closing

まあ、今日話してきたことを一言でまとめるなら、渋沢が読者に向けていた問いは「あなたが今、成敗で測っているのは相手のことか、それとも自分自身のことか」という問いだったんじゃないか、とぼくは思っています。それ、本当ですか——と自分に返せる問いです。 他人の結果を見て判断している感覚はあっても、自分自身の行動が道理に沿っていたかどうかを問い返している人は、案外少ないかもしれない。断定はしません。ただ、その余地を残して今日は終わりにします。[pause] 次回も『論語と算盤』から、別の章を読んでいきます。論語と算盤を読み解く、でした。

← PREV

エピソード

ARCHIVE

論語と算盤を読み解く の他のエピソード

→