深夜の、それでいいんじゃないか
深夜の、それでいいんじゃないか
EPISODE· 2026年7月16日

深夜の、それでいいんじゃないか

RIO

深夜の、それでいいんじゃないか

TAP TO PLAY

このエピソードをシェア

SHARE
SCRIPT
opening

えーと、今夜もはじめていきます。「深夜の、それでいいんじゃないか」。 ちょっと前まで、冬って感じがしなかったのに、ここ数日でいきなり来ましたね。布団から出るのがしんどい、みたいな感覚、あなたも今ごろ取り戻してるんじゃないかと思うんですけど。ぼくはというと、夜に特に何もする気になれなくて、えーと、なんとなく昔のアニメを流してたんですよ。作業のBGMみたいな感じで。で、別に真剣に見てたわけじゃないんですけど、ある場面で手が止まった。転校生が教室に入ってくるシーン。 ぼく自身は転校した経験があるわけでも、誰かを転校させたわけでもなくて、まあそういう意味では全然ピンとくるはずのない場面なんですよね。でもなんか、止まった。大した話じゃないかもしれないんですけど、その「引っかかり」だけ、今夜ここに持ち込んでみようと思って。

question

で、その場面なんですけど。扉がひとつ、開くじゃないですか。教室の後ろか前か、アニメによって違うんですけど、とにかくドアが開いて、見知らぬ子が立ってる。クラス全員がいっせいに振り返る。で、主人公が「なんか、すごい子が来た」みたいな顔をする。あの構図、ぼくが見たのも似たような感じで、廊下の光を背に女の子が立ってて、教室の中がざわっとする、その数秒でした。 冷静に考えると、転校生ってストーリー上は「道具」ですよね。既存のキャラクターたちの関係に揺さぶりをかけるために設置される外部装置で、見てるぼくたちはそれをわかってるはずなんですよ。でもわかってても、なんかドキッとする。なんでだろう、と思って。 で、えーと、ひとつ気になったのが「過去がない」ってことで。転校生というキャラクターには、その学校での積み重ねがない。どんな失敗をしたとか、誰と仲良くてとか、そういう文脈がまだ存在していないから、見てる側が勝手に余白を埋められる。「もしかしたらこういう子かも」って、投影しやすい構造になってる。ぼくはそこで代理体験が起きてるんだと最初は思ったんですよ、あの子になりたい、みたいな。 [pause] ただ、手が止まったあと少し経って、あれ、ぼくは何に感情移入してるんだ、って気になりはじめて。転校生の側じゃなくて、振り返ってる教室の生徒たちの側に、自分を重ねてたんですよね。つまり羨ましいのは「転校生の立場」じゃなくて、「外から誰かが来ることで日常がちょっと動く、あの感じ」なんじゃないかって。自分が変わるんじゃなくて、外から変えてもらう。そういう欲望が、あのドアが開く瞬間に乗っかってる、そんな気がして。 それ、本当ですか、とぼく自身に聞きたくなるんですけど、あなたはどっちだと思いますか。転校生への感情移入って、なりたい自分への投影なのか、それとも変えてもらいたい日常への期待なのか。

letter

今夜はお便りが届いていなくて、まあ、それはそれでいいんですよ。ただ、これはこれで材料になるな、と思って。 転校生のいない教室、って想像してみると、それが普通の日常じゃないですか。毎朝同じ顔ぶれが来て、席順も大体決まってて、ホームルームがあって、授業があって、誰も扉を劇的に開けたりしない。お便りのない夜も、ちょっと似てて、ぼくがここで喋ってても、外から何かが飛び込んでくるわけじゃない。で、その静けさの中でふと、ぼく自身が「待っている側」にいるな、って気づくんですよね。 [pause] データで見ると、逆なんですよね、という話でもないんですけど、でも感覚としては、転校生を待つ教室の生徒と、お便りを待つ番組って、構造が同じじゃないかと思って。外から何かが来ることで初めて動き出す、という仕組み。ただ、来なかったからといって、教室は存在していないわけじゃない。誰も来なくても、そこにいる人たちは確かにそこにいる。来なかったことも、そのまま持っておく、それでいいんじゃないかと、今夜はそう思ってる。

closing

転校生が来ると日常が動く。でも、動かしてもらうのを待っている自分に、気づいているかどうか、そこだと思うんですよね。 次回のお題をひとつ置いておきます。「あなたの日常に転校生が来たとしたら、あなたは迎える側か、それとも自分が転校生になりたい側か」。答えはどっちでもいい、ただ、どっちだと思うかだけ、少し持ち帰ってみてください。 「深夜の、それでいいんじゃないか」でした。またね。

← PREV

エピソード

ARCHIVE

深夜の、それでいいんじゃないか の他のエピソード